第9話
その晩、部屋をノックする音と
理佐「入っていい?」
理佐の声。
理央「どうぞ。」
理佐はドアを開けると、そのままドアに背を付け俺の方を見る。
理佐「…朝の事だけど…その、」
理央「まだ待ってて貰える?」
理佐「もう決めたの?」
不安げな視線を向ける。
理央「…ゴメン、理佐にはまだ何も伝えられない。…まあ冷静に考えたら理佐と付き合うって言う選択は…」
理佐「待って!…その理屈は頭では分かってる。でも、そんな理屈じゃない。理央を好きな事に理屈なんてない。…それだけは…」
話の途中、目を潤ませ言葉が詰まる理佐。
俺は彼女の前へ行き、抱き締めた。
理央「俺もまだ最後まで話してないんだけど。俺も理佐を大事に思う気持ちはルールとか、倫理観とかとは別物だと思ってるよ。…だけど、答えは出さなきゃ。もう少し待ってて?」
理佐「…うん。」
理佐は返事をして俺の背中に手を回した。
翌日、いつもより早く学校へ向かう。
そのせいか学園に向かう生徒の数も僅かだ。
その通学路の途中、
由依「…おはよ、渡邉君。」
理央「ああ、おはよう。早いね由依。」
由依と出会う。
由依「聞こえてなかった?昨日待ち伏せするって言ったの。」
理央「…聞こえてました。あれ?ちっこい方の佑唯は?」
由依「準備が間に合わなかったみたい。…もしかして、ずーみんの方が良かった?」
理央「そんな事ないさ。由依の穏やかな雰囲気は朝に合ってるし。」
そう言うと、柔らかい笑顔を見せて
由依「ふふっ、学校行こ?」
理央「ああ。」
再び歩き出すと、俺の手をそっと握る彼女。
由依の顔を見ると、眉毛を少し下げ
由依「…ダメ?」
と聞く。
理央「ううん。でも、学校の手前までね?」
由依「…仕方ないなぁ。それで許してあげる。」
理央「ありがとう。」
そして、彼女と学校へ向かう途中…それは起きた。
いつもはもっと遅い時間に登校する彼女が姿を見せる。
理央「ん?あ、莉菜さんおはようございます。」
莉菜「おはよ〜。あれ?今日は小林ちゃんと登校?」
由依「…おはようございます。」
莉菜「そんなあからさまに嫌な顔しないでよ〜。まあ、せっかくの二人きりの時間を邪魔されたらそんな顔するのも分からなくはないけど。」
由依「………。」
理央「いつもより早くないですか?」
そう言うと、彼女は俺の隣にいた由依に視線を向けながら、
莉菜「小林ちゃんと一緒だよ。理央と2人の時間を作ろうと思って待ってた。」
理央「そうですか。」
由依「…今日は譲って貰えませんか?先輩はバイト帰りとか渡邉君と一緒ですもんね?」
莉菜さんにはっきり意見を言う由依。
莉菜さんは少し驚いた表情を見せた後、いつもの笑顔で
莉菜「へぇ〜、小林ちゃんて意外と自己主張するタイプなんだ〜。」
由依「…渡邉君に関しては譲る気ないんで。」
理央「あの〜2人とも…」
「「何?」」
「………いえ。」
見たことのない鋭い視線を浴びせられた俺は黙るしかなかった。
いつもなら、「そういうのは見たくない。」と言って止めるはずなのに、何故か今日の自分はその言葉を発せない。
足を止め、話し続ける2人。
ふと視線を上げると車が目に入る。
…違和感を感じる。
その車は不安定な動きをしながら俺たちの方へと向かってきていた。
俺は2人を強く押す。
莉菜「きゃっ!?」
由依「ちょっ、渡邉く…」
振り向く2人の視界に映ったのは絶望の瞬間。
強い衝撃と共に俺は意識を失った…