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特別編
こんな夜だから
理佐「…いつ復旧するのかな。」
理央「…さあ。昼のラジオで見通しが立たないって言ってたけどね。」


母方の祖父の葬儀で北海道に来ていた俺達。
無事に終わり今日の飛行機で帰京する予定だったが、今日未明の地震により飛行機は飛ばず、祖父の家で今日も過ごす事に。


俺や理佐のスマホには心配した学園の友人(特に、例の彼女達)からのLINEが山の様に届いていた。


祖父の家は大きな被害は無かったものの、北海道全体で停電が発生していた。


モバイルバッテリーを2人とも持っていたので、取りあえずスマホは生きていてみんなに無事を伝えると、安堵の返事が送られてくる。


みんなの優しさに感謝しながらうちの家族と祖母、母の姉家族でライフラインの回復を待っていた。


日奈子「理佐〜、理央〜。」
理佐「何?日奈子姉ちゃん。」
日奈子「晩ご飯だって。暗くなる前に食べてしまおうって。」
理央「うん。」


二階の部屋にいた俺達を呼びに来たのは2つ歳上の北野日奈子姉ちゃん。


今は専門学校生だとか。


「「いただきま〜す」」


葬儀があったので、食料はある程度ストックされていたし、ガスコンロの家なので土鍋で米を炊きみんなで食事をとる。


理央「…土鍋ご飯美味い。ばあちゃん、火加減教えて。今度家で炊きたい。」
祖母「そうかい?理央は料理好きなんだねぇ。」
母「私の息子だから。」
日奈子「おばさん言うね〜。で、理佐は?」
理佐「…私だってやれば出来るし。」
叔母「それはあまりやらない子のセリフよ。」
日奈子「何だ〜。理佐も私の仲間だ〜。」
理佐「…そんな事ない。ね、理央?」
理央「まあ、たまに弁当作ってくれるし、美味しいよ。」
日奈子「理央は相変わらず優しいね〜。で、何で理佐は顔赤いの?」
理佐「…何でもない。」






家族団欒の食事を終えて、二階の部屋で日奈子姉ちゃんと理佐の3人で話をしていると、辺りはあっという間に暗くなった。


日奈子「もう秋だね〜。もう暗いよ。」
理佐「ホントだ。」


俺は窓から外を見る。

空を見て2人に声をかける。


理央「ねえ、外に出てみようよ。」
日奈子「どうしたの?」
理佐「もう暗いのに?」
理央「暗いからだよ。ほら、行くよ。」


2人の手を取り玄関を出ると、


「「うわぁ〜」」


2人が感嘆の声を上げる。


街灯も消え、近所の家から漏れる灯りも僅かな今日。


快晴だった空は、満天の星が輝いていた。


日奈子「私、北海道に住んでるけど、こんなに綺麗な星空見たの初めて。」
理佐「私も。東京じゃほとんど見られないからなぁ、星空なんて。」
理央「ホント。停電って凄く不便だけど、いつもとは違うものが見られるって悪くないよね。」


3人で空を見上げ続ける。


日奈子「あっ!流れ星!」
理佐「えっ!?どこどこ?」
理央「もう消えたよ。」
理佐「ちぇっ、せっかく願い事しようと思ったのにな。」
日奈子「何をお願いするつもりだったの?」
理佐「それは理央と、…って、言わない!」
日奈子「何々、理央とどうしようって?」
理佐「絶対言わない!日奈子姉ちゃん口軽いし。」


2人がそんな言い合いをしている声を聞きながら、俺は空を見続けた。


そして、


理央「…やっぱり北海道だな。決めた。」
日奈子「何を決めたの?」
理央「俺、就職は北海道にする。」
理佐「前にもそう言ってたよね。」
日奈子「そうなの?何で?」


2人の視線が俺に向けられる。


理央「…こんな絶景が見られるんだよ?俺、静かで自然のいっぱいあるところで暮らしたいからさ。」
日奈子「理央、何か小学生の男子みたい。」
理佐「…そういうところが理央の良いところだし。」
理央「はは、ありがとう。さてと、そろそろ家に入りますか。涼しくなってきたし。」
理佐「ちょっと肌寒いもんね。」
日奈子「このくらいで寒いって言ってるようじゃ、北海道には住めないぞ、理佐。」
理佐「…何で、北海道に住む前提なの?」


理佐の問い掛けに、ニヤニヤした姉ちゃんが、


日奈子「理佐は理央にどこまでも付いてくるつもりなんじゃない?」
理佐「そ、そんな事な、」
日奈子「ウソだ〜。姉ちゃんにはバレバレなんだからな〜。理佐は理央に恋してるだろ〜。」


その言葉に狼狽える理佐。


理佐「日奈子姉ちゃん、ちょっと声が大きい!」
日奈子「て事は、ビンゴだね〜。いや〜
カワイイなぁ理佐は〜。」


頬をツンツンと突きながら、理佐を弄る姉ちゃん。





そんな2人を微笑ましいと思ってしまう俺。


そしてもう一度、吸い込まれそうなほど辺り一面に広がる夜空を見上げ手を伸ばした。




何だか手が届くような気がして。



■筆者メッセージ
北海道は地震による停電が全道で起きていました。

一部の地域は復旧したようですが、自分の住む街は未だ停電が続いています。

そんな中、空を見上げるとキレイな星空が見えました。

地震による被害で大変な思いをされている方もいらっしゃいますが、そんな時だからちょっとだけ下を向かず、上を向いてみませんか?

hinata ( 2018/09/06(木) 21:36 )