第9話
夕方、俺達は湯の川に来ていた。
一日中歩き回ったので足湯で疲れを癒す。
あれからねるの様子は表面上、特に変わらないがいつもと違う。
俺には笑顔を向けてくれないのだ。
足湯から上がり、最後に湯倉神社へ向かう。
ねる、石森、尾関の3人が前を歩く中で、少し離れて歩く俺の横に冬優花がやって来た。
冬「…ねると何かあった?」
やはり冬優花には気付かれた。
理央「…喫茶店出た時に、」
俺はねるの言葉を冬優花に伝えた。
多分誰かに聞いて欲しかったんだと思う。
冬「…そんな事言ったんだ、ねる。」
理央「…ああ。」
冬「…理央は人生に恋愛って必要だと思う?」
理央「…あった方が良いとは思うけど。」
冬「…どちらかと言えばあった方が良いくらいの事で私達は喜んだり悲しんだり、泣いたり笑ったりするんだよね。」
理央「………。」
冬「…あんたも好意を寄せてくれる子達の中から選ぶのに相当悩んでる。私達には想像できないくらいに、きっと。」
理央「………。」
冬「…神様は乗り越えられない試練を与えないらしいから、理央も乗り越えられるよ。今は苦しくてもね。…ってちょっと真面目に語り過ぎたね。」
照れ笑いする冬優花。
理央「…ありがとう、冬優花。お前、やっぱりイイ女だわ。」
冬「えっ、ちょっと何言ってんのよ恥ずかしい!」
勢い良く俺の肩を叩く。
理央「痛えって。でも、何かココにグッと来たよ。」
そう言って自分の左胸を指した。
冬「そう?」
理央「今度お礼にシフォンケーキ作ってやるよ。イチゴ練り込んでな。」
冬「やった!じゃあヨロシク!」
そんな話をしていて、ふと前を見るとねると目が合う。
ねる「…っ、」
しかし直ぐに逸らされる。
その様子を見ていた冬優花が、
冬「…ねるもホントは気にしてるんだって。ちゃんと仲直りしなさいよ?」
理央「…うん。」
神社に到着してまずは全員で手を合わせお参りする。
そして、『イカすおみくじ』をそれぞれに引く。
理央「…末吉。…女難の一年。」
ちょっと笑えないおみくじだった。
虹「やった!大吉!」
梨香「私は中吉〜。」
冬「うん、私も中吉だった。」
ねる「………。」
冬「あれ?ねるは?」
ねる「…凶。」
1人どんよりとした雰囲気のねる。
3人が慰めの言葉を掛けても、表情は曇ったままだ。
梨香「最後にお守り買っていこうよ。」
尾関の提案で、自分で作れるお守りを買うことに。
それぞれ真剣に選んでいる。
俺もひとつ作る。
冬「さ、ホテル戻ろうか。」
そうしてみんな歩き始めた時、俺はねるに声を掛けた。
理央「ねる。」
ねる「…何?」
理央「…これ、貰って。」
ねる「…さっき作ったお守り?」
理央「うん。」
紫色のお守りを渡す。
ねる「…中身は何にしたと?」
理央「…『祓』。おみくじで凶が出たねるに悪い事が起こらないように。」
ねる「…ありがとう。…それと…ごめんなさい!」
頭を下げたねる。
ねる「…理央にイヤな態度取ってしまったと。」
理央「それは俺も悪かったし…、ねるの気持ちが分かってむしろ良かったと思ってる。ゴメン。」
顔を上げるとやっとねるが笑ってくれた。
それを見て俺も笑顔になる。
ねる「…ねるも、仲直りしたくて…これ、理央に。」
彼女も紺色のお守りを俺に手渡す。
理央「中身は?」
ねる「『健』と『愛』。」
理央「…ありがとう。」
冬「おーい、置いてくよー!」
理央「今行く!…ねる。」
ねる「…うん!」
彼女の手を取り冬優花達の所へ。
合流する前に、彼女が小さな声で
ねる「…この間の約束、今日の夜でも良かと?」
理央「…うん。どうぞ。」
ねる「…やった。」
冬「仲直り出来たみたいだね。」
梨香「うんうん。」
虹「これで一安心だ。」
この日の思い出を話しながらホテルに戻った。
ねる「へへ〜理央に貰ったよ〜。いいでしょ〜。」
理佐「…私には?」
愛佳「私にも作ってくれなかったの?」
佑唯「いいな〜ねる。」
美愉「…私も欲しかった。」
由依「………。」
理央「…何かすいません。」
…女難…。正にその通り…かも。