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番外編4
ゆいぽんの場合

由依「…はぁ。」


2人に聞こえないくらい小さな溜め息をつく。


3歩ほど前を歩く渡邉君とずーみん。
ずーみんは彼の右手を両手で握り、ブンブン振っている。


満面の笑みを彼に向け、彼も優しい表情でずーみんを見ている。


胸の辺りがチクチクと痛む。




ずーみんの事、応援するつもりだったのに…いつからだろう…、彼の事が気になり始めたのは…。


多分あの時かな…。





軽音部の練習の後、いつものように3人で歩く帰り道。


ずーみんはとにかく笑顔を絶やさず、彼に話をしている。


彼はどんな他愛のない内容でもちゃんと聞いて、返事をする。


そんな時、


「佑唯ー。」


止まった車から声を掛けられるずーみん。


佑唯「あっ、お兄ちゃん!」
理央「佑唯のお兄さん?こんばんは。」
由依「こんばんは。」
「佑唯の友達かい?妹と仲良くしてくれてありがとう。そうだ佑唯、車に乗って。これから家族みんなでご飯食べに行くから。」
佑唯「そうなの?うん、分かった。じゃあゆいぽん、理央君、またね!」
理央「うん、また明日。」
由依「バイバイ。」


お兄さんの車で去って行くずーみん。
突然2人きりになってしまい、どうしたら良いか分からず黙っていると、


理央「じゃあ小林の家まで送るよ。行こうか。」
由依「えっ!?あ、悪いよ。ずーみんもいないし、1人で帰れるよ?」
理央「でもさ、小林の家の方って割と街灯少なくて女の子が1人で歩くの危なくない?」
由依「う、うん。」
理央「て、事だから。行くよ?」
由依「…ありがとう。」


そんな気遣いで心が暖かくなって、彼の少し後ろを歩く帰り道。


会話がなくても何だか楽しいと感じていたけど、


理央「なあ、小林。」
由依「…んっ?え、は、はい。」


びっくりして慌てて返事をしてしまう。
それが可笑しかったらしく、


理央「はは、小林もそんな反応する事あるんだな。」
由依「え、私ってどんな感じだと思ってたの?」
理央「落ち着いてるなぁって。たまに、冷めてるのかなって思う時はあるけど。」
由依「ふーん。どうせ、老けて見られますよーだ。」
理央「んな事はないよ。オダナナが力説する小林の可愛さは俺も『分かる〜』ってなるし。」
由依「何それ、変なの。」


思わず笑ってしまうと、


理央「やっと笑った。それと、何でちょっと後ろ歩くの?友達なんだから隣歩いてよ。」
由依「う、うん。じゃあ。」


今度は隣を歩くようにすると、彼から話しかけられる。


理央「小林って、付き合った事ってある?」
由依「ううん。」
理央「そうなの?」
由依「あんまり恋愛に興味がなかったし。ずーみんとか、今のクラスメイトは仲良くしてくれるけど、中学生の頃はぼっちだったから。」
理央「小林可愛いのにな。」


さらっとそんな風に言ってしまう彼にドキッとしてしまった。

自分を落ち着かせるように話しかける。


由依「…渡邉君って結構色んな人に可愛いって言ってるよね?」
理央「うちの学校の女子はレベル高すぎ、高杉君だからね。それに本気でそう思ってるから言うんだけど。」
由依「あ、ありがと。」


思わず笑みがこぼれてしまう。


そんな時、


由依「ん、あ…雨?」
理央「みたいだな。」


ちょっと強めの雨が降り始めた。
おもむろにカバンを開ける彼。


理央「折りたたみだから小さいけど。」


そう言って傘をさす。


由依「ゴメンね。私持ってなかった。」
理央「気にするなよ、小林と相合傘とかある意味ご褒美だし。」
由依「もう…。」


そんな他愛のない会話をしながら私の家に着く。


由依「今日はありがとう。」
理央「どういたしまして。」


玄関先で彼に正対して気付く。


由依「渡邉君、左肩凄く濡れてるよ?ちょっと待ってて、タオル取ってくる。」
理央「あ、いや気にしなくていいよ。もう帰るし。」
由依「だって私が濡れないようにしてくれてたんでしょ?」
理央「普通の男子ならそうするって。」
由依「いいから待ってて!もしタオル取ってくる間に帰ったらもう渡邉君と口聞いてあげない。」


そう言うと優しい表情で、


理央「それは困る。じゃあお言葉に甘えて。」
由依「うん。」





理央「ありがとう小林。これ、洗って返すから。」
由依「いいよ、そんなの。…私のためにありがとう。」


そう言って彼の手からタオルを取り、お礼を言う。


理央「じゃあ俺帰るな。また明日。」
由依「うん、おやすみ渡邉君。」
理央「おやすみ。」



彼の背中が見えなくなるまで、私は玄関を離れなかった。


そんな様子を見て姉に茶化されてしまったが、


「由依にも春が来たねえ〜。」


その言葉を否定出来ない自分がいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


由依「…私もずーみんみたく素直になれたら…。」


2人に聞こえないように呟く。
そんな時、


理央「小林〜。そんな離れないで一緒に歩こう?」
佑唯「そうだよー。ほら、おいで!」
由依「う、うん。」


ずーみんとは反対の彼の隣を歩く。




いつか、この気持ちは蓋が出来なくなるんだろうなぁ…。

ゴメンねずーみん…。
相方が恋のライバルになるなんて………。



■筆者メッセージ
ご無沙汰しています。
仕事で毎日忙しくて中々筆が進みませんでした。

てことで、メッセージの返事の通り小林さんの番外編書きます。

小林さんのはこの先どうするかはまだ分かりません。本編で書くかもしれませんが…。

この他、原田、影山コンビのデート編は間違いなく書きます。鋭意執筆中です。

リクのあった飛鳥さんですけど、ホントは欅さんの小説だからなぁ〜と思ってたんですが、とりあえずやってみます。

まだ何も準備してませんから、少し時間を下さい。

ではまた。
hinata ( 2018/06/26(火) 21:55 )