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第7章
第18話
飛鳥「お、副会長様のお出ましだな。」
理央「やめてよ姉さん。」


ステージ脇に移動すると、ドラムのスティックをクルクル回している飛鳥姉さんに茶化される。


その後、すぐに俺に寄って来て耳元に顔を寄せる。


飛鳥「…理央、あの2人えらく不機嫌だぞ。」
理央「…何で?」
飛鳥「…決まってんじゃん。ゆっかーとの『美女と野獣』だよ。ブツブツ言ってたぞ。ま、機嫌取りしてこい。」
理央「…えぇ…分かった…。」


背中を押され、ゆいちゃんずの待機している方に足を向ける。


理央「…ゆい。」


そう声をかけると、既にギターを準備して出番を待っている2人が振り向く。


佑唯「…どっちに声掛けたの?」
由依「…どっちも『ゆい』だけど?」


ホントに不機嫌だよ…。理由は飛鳥姉さんに聞いてるけど、一応聞いてみる。


理央「ゆいちゃんずに声を掛けてますけど…。何かあった?」
佑唯「…分からないんだ?」
理央「…うん。」
由依「…会長と随分良い雰囲気だったね?」
理央「ああ。…そういう設定だし。照れたりすると変な空気になるし。この後歌うのと一緒、やるからには中途半端にやりたくないからさ。」
「「………。」」


2人は黙って俺の顔を見ている。
しかし、まだ納得はしていない様子なので、


理央「…2人の気持ちが乗らないなら俺出るの止めようか?」
佑唯「えっ!?」
由依「ちょっと渡邉君?」
理央「…そんな感じの2人と歌っても俺は楽しめないし。自分が楽しんでない音を人に聞かせて良いものなの?」


そう言うと後ろから飛鳥姉さんが話しかけてきた。


飛鳥「今回は理央の言ってる事が正論じゃない?プロになりたい人が、プライベート引きずってパフォーマンスに集中出来ないとか話にならない。」
由依「飛鳥さん…。」
飛鳥「それに理央がモテるの分かった上で好きなんでしょ?なら2人もさっきのゆっかーよりもスゴいところ見せてやれば?」


その言葉に表情が変わる2人。


佑唯「…はい。そうですね!私やります!」
由依「…私も。」
飛鳥「それで良し。私達が出やすいように場を温めておいてよ?」
「「はい!」」


丁度前の組が終わる。


2人はステージに進んで行った。



理央「…姉さんありがとう。」
飛鳥「…今度焼肉奢りな?」
理央「…分かったよ。」
飛鳥「…ついでにデートするから。」
理央「…そうなの?」
飛鳥「…可愛い後輩の為に身を引いてやるんだ、そのくらい相手しろ。」


顔を背けてそう言った飛鳥姉さん。
再び俺の方を向き、


理央「…姉さん?」
飛鳥「…約束だからな?」
理央「…うん。約束する。」
飛鳥「…なら良し。さて2人の歌聞こうか。」


そう言うと、左手で俺の右手を握ってくる飛鳥姉さん。

少し指先が冷たい。
緊張しているのだろうか。

俺は少し右手に力を入れると、姉さんはこちらを向いて普段よりも優しい笑顔を見せた。





佑唯『こんにちは!せーの、』
『『ゆいちゃんずです!!』』


人気のユニットの挨拶に大きな声援が聞こえた。


由依『それでは一曲目です。聞いてください、』
『『渋谷川』』


♫〜


一曲目が終わると大きな拍手と歓声が聞こえる。

いつもの2人の歌声だった。


佑唯『それでは次の曲です。』
『『ゼンマイ仕掛けの夢』』






愛佳「相変わらず上手いね、2人。」
理佐「うん。…でもさ、何で他の楽器も用意してるんだろう?いつもアコギだけなのにね。」
愛佳「そういえば。次の曲は普段のフォークソングじゃないのかな?」



♫〜


二曲目が終わり、再び2人が話し出す。
もうすぐ出番だ。



由依『ありがとうございました。』
佑唯『次が最後の曲なんですが、「えー!!」ありがとうございます。最後の曲はいつもと違って、バンドでやりたいと思います。』
由依『準備するので少しお待ち下さい。』


2人はエレキギターとキーボードの準備をする。


由依『お待たせしました。』
佑唯『そして、今回は特別なメンバーをお呼びしています。』
由依『ドラム!齋藤飛鳥!』


理央「…行ってらっしゃい。」
飛鳥「…うん。」


最後にギュッと手を握り、姉さんはステージに向かった。


大きな歓声が聞こえる。さすが3年生NO.1の男子人気を誇る姉さんの登場に会場が湧いている。


登場の挨拶代わりにドラムを叩く姉さんに大きな拍手が送られた。


由依『そしてもう1人。』
佑唯『ヴォーカル、渡邉理央!』


hinata ( 2018/06/15(金) 22:24 )