第11話
学園祭前日。俺は家庭科室で美愉や長沢、キッチン担当のクラスメイトと共にカレー作りやオムライスの材料の準備をしていた。
欅学園の学園祭、明日の1日目(前日祭)は本校生徒のみで開催され、2日目は招待チケット制で実施される。
これは女子校時代からの伝統であり、そのチケットも生徒一人当たり5枚のみ配布される、まさにプラチナチケットである。
過去において、チケットが偽造される事件が起きるなど下手なアイドル顔負けの大イベントだ。
俺の所にも中学時代の友達から多くの連絡が来るが、あまりに下心丸出しな奴が多いのでほとんど断っていた。
当日、生徒会メンバー及び実行委員は学園玄関前で受付を担当しチケットの確認を行う。
(因みに偽造の確認をする機械まで使用する)
偽造が見つかったり、無理矢理入ろうとする輩は武闘派を揃えた風紀委員会、通称『用心棒』が適切に対処する決まりになっている。
受付時間は開始30分前の9時から、午前11時まで。それ以降は生徒会メンバーも各クラスの模擬店の仕事に回るので、教員が出入りの対応をする。
とまあ、学園祭の開催に関する説明はこのくらいにして、ただ今大量のタマネギを炒めている。
理央「美愉、アメ色になるまで結構かかりそう。」
美愉「…うん。でもその方が美味しいし、入れる具材も後は肉と人参だけだから。」
菜々「鈴本、カレーのスープは?」
美愉「…今もう一回火を入れてる。」
美愉が1週間前から野菜と豚骨を煮込んだスープを用意して、カレーに使うそうだ。
理央「…本格的過ぎるだろ。」
他のメンバーはオムライスに使う具材を切り出し、分量で小分けにしている。当日の作業効率を考えてすぐに調理できるようにするためだ。
パンケーキの方は、当日の朝準備する。
生クリーム、果物は鮮度が大切なので朝早く集合する予定だ。
美愉「…明日は、各メニュー50食。明後日は100食。オムライスの具材、明日も切り出しするのでみんなお願い。」
「「「はーい。」」」
理央「カレーは今日作っちゃうんだろ?」
美愉「…うん。」
菜々「出来たら味見させてね。」
理央「一口な。」
菜々「足りな〜い。」
美愉「…菜々香に食べさせたらいくらあっても足りなくなるでしょ。」
理央「そういう事。」
そして2時間後。
寸胴にいっぱいのカレーが完成した。
菜々「一口、味見。…美味しい。」
理央「うん。さすがに美味い。」
美愉「…後は一晩寝かせて、明日は一人前ずつ温めて使うから。」
菜々「うん。」
美愉「…お米は水を少なめで炊いて、オムライスがベタッとならないようにするから。後は明日。今日はお疲れ様。」
他のクラスメイトが帰り、3人でカレーを涼しい準備室に運びいれた。
理央「これで良しと。明日、頑張ろうな2人とも。」
菜々「うん。」
美愉「…私と菜々香がオムライス担当、理央がパンケーキ担当で。」
理央「了解です、シェフ。」
菜々「渡邉君、明日味見させてね。」
理央「みんなで味見するから、1人で食うなよ。」
菜々「…一人前食べた〜い。」
理央「最優秀クラスになったら、特製のやつ作ってやるよ。」
菜々「そっかー、じゃあ頑張る。鈴本も頑張ろー。」
美愉「…う、うん、もちろん。」
苦笑いしながら答える美愉。
俺もその様子を見ながら笑っていると、
菜々「あ、私帰る。」
理央「え?何か用事?」
菜々香「うん。後は2人でごゆっくり。…あ、ここでは変な事しないでよ。衛生的に問題あるし。」
美愉「し、しないってば!!」
菜々「そう?じゃあね、2人とも。」
とんだ爆弾発言を何食わぬ顔で言って帰った長沢。
さすがの俺も何も言えなかった。
2人きりになり、沈黙が続く。
完全に長沢の発言のせいだ。
美愉の顔は俯いているため見えないが、髪から覗く耳が真っ赤になっていた。
理央「美愉、耳真っ赤だけどどうした?」
美愉「はっ!?え、イヤ、な、何も!」
明らかに動揺が見て取れる。
理央「美愉。」
美愉「な、何?」
理央「思ってる事だとか、言いたい事はちゃんと言ってくれない?美愉は割と顔に出るけど、必ずしも正解とは限らないし。」
そう伝えると、彼女がジッと俺に視線を向けた。少しの沈黙の後、
美愉「…理央、明日上手く行くようにおまじない。」
彼女が目を閉じて唇を突き出した。
俺は彼女の唇にそっと触れるだけのキスをした。
唇が離れた後に、
美愉「…学園祭終わったら、…デート…したい。」
理央「分かった。じゃあ、来週末でもいい?」
美愉「…うん。」
頬を染めながら笑顔を見せる美愉の頭を撫でながら、
理央「頑張ろうな、学園祭。ダンスも楽しみにしてるから。」
そう言うと、
美愉「…あ、私も最後の練習に参加しないと。理央、戸締りお願い。じゃあまた明日。」
慌てて支度をして家庭科室を出て行った。
理央「俺も顔出しておくか。」
家庭科室の鍵を閉め、佑唯達が練習をしている部屋に向かった。