8話
学園が見えてきたところで自転車を止め、理佐を降ろす。
理央「理佐大丈夫か?」
理佐「うん。ありがとう理央。」
俺も自転車を降り、押しながら2人で歩く。
理央「俺今日もバイトだから、帰り自転車乗って帰るか?」
理佐「ううん、愛佳も歩きだろうから歩いて帰る。」
理央「そっか、分かった。授業中寝るなよ。」
理佐「…多分無理。後でノート写させて。」
理央「はいはい。」
「理央さん!!」
その声に振り向くと、てちが走ってくる。
足を止めると、少し息を切らし目の前までやって来た。
理央「おはよう、てち。」
友「おはようございます。理佐さんもおはようございます。」
理佐「おはよう。」
友「昨日はありがとうございました。あと、すいません父が…。」
理央「いや、年頃の娘を持つ父親のオーソドックスな反応だろ、気にしてない。」
理佐「…親にまで会ったの?」
怪訝な顔でそう言った理佐に、
友「あ、いや父が勝手に外で待ってて、それで…、」
理央「うちの親父だって理佐が俺以外の男と帰って来るって知ったらそうするぞ、きっと。」
理佐「私にそんなに興味ないんじゃない?」
そう言った理佐の頭にポンっと手を落とし、
理央「バ〜カ。可愛い娘に興味ない親が何処にいるんだよ。理佐が部屋に上がった後、俺に色々様子を聞いて来るんだからな。ちゃんと愛されてんだよ、理佐も。」
理佐「………。」
何も言わない理佐に、言葉を続ける。
理央「たまには親父とも喋ってやれよ、中学以降まともに会話してないだろ?」
理佐「…うん。頑張ってみる。」
理央「よし、偉い偉い。」
そう言って、置いていた手でそのまま撫でる。理佐にしては珍しく反抗しなかったので、少しの間撫で続けた。
友「…いいなぁ…。」
その様子を見ていたてちが2人に聞こえない声で呟く。
理央「さ、行くか。てちも行くぞ。」
理佐「…うん。」
友「あ、はい。」
歩き始めると、てちが口を開く。
友「お二人は本当に仲が良いですよね。」
理央「そうか?普通じゃないか?」
友「私も兄がいて仲はいいと思いますけど、…なんて言うか、距離感がまるで恋人同士みたいと言うか…。」
その言葉に、普段とは明らかに違う反応をしたのは理佐だった。
理佐「な、何言ってるの?そ、そんな事ないよね、理央。」
その声は明らかに動揺している。
それを見て俺は努めて冷静に話し出す。
理央「てち、俺達は双子だろ?何となく相手の考えてる事が伝わるんだよ。だからこういう時はこうしないと、って勝手に反応するんだよ。」
友「そういうものなんですか。」
理央「そういうものなんです。な、理佐?」
理佐「う、うん、そうそう。」
理央「理佐は普段こんな感じだけど、俺が凹んでる時はスゲー優しいんだぞ。最強のツンデレだな。」
友「そうなんですか?理佐さん?」
理佐「余計な事言うな!」
理央「イテッ?!」
背中に強烈な一撃を喰らう。
理央「悪かったよ、さてと俺駐輪場に自転車置いて来るわ。理佐、先行ってて。てち、また放課後な。」
理佐「うん。」
友「はい。」
俺が2人から離れると、友梨奈が理佐に話しかけた。
友「理佐さん。」
理佐「何?」
友「私、本気ですから。…理央さんの事。」
理佐「…なんで私に言うの?」
友「勘です。理佐さんが最大のライバルだって感じたんです。」
理佐「…へえ。」
友「私、負けませんから。」
理佐「…勝手にすれば。」
私は彼女から離れ、2年の下駄箱に向かいながら、
理佐「…負けないけどね、私も。」
誰にも聞こえない声でそっと呟く。
後輩の宣戦布告は私の負けず嫌いに火をつけた。
理央「…なんか寒気が…。」