22話
今日から体育祭に向けた特別日課が始まる。
欅学園の体育祭は各学年のクラス対抗で行われる。
学年の1位となったクラスには特別な賞品が与えられるため、割と平和な学園もこの時ばかりはかなりの熱気に包まれる。
ちなみに2年生の賞品は、超豪華修学旅行らしい。
そのクラスは完全に待遇が違うらしく、莉菜さんに聞くと飛行機はファーストクラス、宿泊部屋、食事も最高級のものが用意されるらしい。
さすが菅井様の父はやる事が違う。
放課後に各クラス、競技の練習をする時間が設定され前日まで行われる。
そして優勝に向けて、例の彼女の号令にも熱が帯びる。
茜「さあ、優勝目指して気合い入れていくよ!!」
「「「はい!!」」」
さすが軍曹の名は伊達じゃない。
彼女の熱にあてられて、割と大人しめなクラスメイトが大きな声で返事をしている。
茜「ねる、よね、ウチのクラスの方針をみんなに。」
ね「は〜い。」
奈「うん。」
茜に呼ばれ前に出てきた長濱ねる、米谷奈々未。学年で一二を争う才女だ。
ね「まず、個人競技は獲得ポイントが多くないけん、練習時間は少なめに設定するよ。借り物競争とか障害物競争とか運に左右される競技もあるし。」
奈「ウチらが重点的に練習するのは高得点な団体競技。玉入れ、綱引き、騎馬戦。それとクラス対抗リレーやで。」
ね「リレーは各クラスの体力測定結果のデータを集めたけん。現状クラスのタイム合計で行くと3番目なんよ。」
奈「ただ、バトン技術を高めれば十分勝機がある。せやから早い段階で順番を決めて練習すんで。」
…スゲー本気だな。
奈「玉入れは北海道でやってる玉入れ選手権の映像を用意したから、技術を取り入れていくで。」
ね「綱引きは知り合いに綱引き選手権の横綱になった人がおるけん、その人に特別コーチをお願いしたけんね。」
…ウチのクラスの参謀はとてつもなく優秀だな。
茜「騎馬戦は上と下のバランスを見ながら組むよ。ただルール上、男子は馬しかできないから5騎全部に男子を組み入れる。結構激しいから崩れたりしないようにしっかり鍛えておいて。」
「「「はい!!」」」
男子は皆背筋が伸びて、大きな声で返事をする。
…もはや軍隊だな。
茜「特に、男子では須藤君、吉沢君、理央、あなた達には期待してるから。」
須藤哲、空手をやっていてその実力は昨年1年生ながら全国3位。鍛え上げられた肉体はフルに生かされるはず。
悠はウチの学園で男子唯一の団体競技、バスケ部の2年エース。身長180センチながら軽やかな動きでシュートを決めまくっている。
茜「さあ、今日は騎馬戦の組み合わせとリレーの順番を決めていくよ。」
理央「さすがに疲れたな…。」
理佐「…うん。」
愛「守屋熱いからね。」
理央「でもああいうヤツがいるとクラスの絆が深まる気がするな。」
理佐「そうかも。実際よねとかねるとあまり喋ったことなかったけど、結構話したし。」
愛「うん、オダナナの由依への愛がハンパない事も分かったし。絶対由依の騎馬やるって譲らないし。」
理央「…小林はスゲー嫌がってたけどな。」
理佐「ふふ、ホントそれ。」
愛「うん、あれでなんか和んだ。」
理佐「そういえば今日もバイトでしょ?理央。」
理央「ああ、そうだけど。」
理佐「運動してお腹空いたからマーブル行こうかな。」
愛「賛成、パンケーキ食べたい。」
理央「…今日は奢れないからな。」
愛「えー、奢ってくれないの?」
理央「土曜日も結構使ったし、その前にも理佐と出掛けたから今月もう金欠なんだけど。」
理佐「………。」
愛「………。」
2人とも察してくれたみたいだ。
理央「お疲れ様でーす。すいません遅くなりました。」
理佐「こんにちは。」
愛「こんにちは。」
美「あ〜理央、待ってたわよ〜。平手ちゃんしか来てなくて大忙しだったのよ〜。」
確かに結構混んでるな。
理央「すいません、今日から体育祭の特別日課になったんで。」
美「そっか〜、もうそんな時期だもんね。あ、とにかく急いで準備して。」
理央「了解です。」
美「理佐ちゃんと愛佳ちゃん、ゴメン、空いてる席に座って。」
「「はい。」」
理佐「私達帰るね。バイト頑張って。」
愛「バイバイ、また明日。」
理央「おう、気をつけて帰れよ。」
客足も落ち着き、マーブルにゆっくりとした時間が流れる。
客も1組しかいない。ただ、
葵「やっぱり理央先輩のウェイター姿カッコいいよね。」
優「うんうん。今まであまり来てなかったけど、これからはもっと来ようね。」
生徒会1年生コンビからの視線を物凄く感じる。
それを見て不機嫌オーラを出している友梨奈。
友梨「…モテモテですね、理央さん。さぞかし2人の事可愛がってるんでしょうね。」
理央「…取りあえずその不機嫌オーラしまってくれない?友梨奈ちゃん。」
友梨「ふんっ!」
そっぽを向く友梨奈。
美「ほら平手ちゃん、そんな顔しても幸せはやってこないぞ。」
そう美彩さんに言われると、今度はシュンとした表情で話し始める。
友梨「だって…。今までは理央さんと1番仲良くしてる後輩は私だったのに…。」
莉「モテ男君は大変だね〜。平手ちゃんはそんなに理央の事が好きなんだ〜。」
莉菜さんにそう言われると、今度は顔を真っ赤にする友梨奈。
今日は表情の変化が忙しいな、随分と。
友梨「な、何言ってるんですか、莉菜さん!」
莉「だってねえ。それだけ理央の事で一喜一憂してるのにさ、それに気付かない方がおかしいでしょ〜。まあ、鈍感理央は気付いてないと思うけどさ。」
…莉菜さん結構ズケズケ言うよな。
理央「…やっぱり俺は鈍感ですか?」
「「「うん(はい)」」」
理央「そんな全員で頷かなくても良くないですか?」
美「だってホントの事だし〜。」
友梨「あの、理央さん。」
理央「何?」
友梨「今日バイト終わったら少し良いですか?」
理央「…いいけど。」
何だか少しだけ背筋が伸びる気がした。