No.1
葵「ねえ理佐聞いて聞いて〜。」
理「…うるさい。」
葵「いいじゃん少しでいいから聞いてよ〜。」
理「………。」
仕方ないので誰か話を聞いてくれそうなメンバーを探す。
周りを見渡すと、一斉にスマホをいじったり、学業のあるメンバーは机に向かったりしていた。
葵「みんなして酷いー。いいもん、飲み物買ってこよ。」
私は財布を持って楽屋を出た。
友「流石に葵ちゃん可哀想だったかな?」
茜「でも、あの感じは長くなりそうだったから。」
愛「そうそう。付き合うと大変じゃん。」
友「でも戻ったら私が話聞くね。やっぱりちょっと…。」
愛「流石チャプチェ。」
友「ちょっと愛佳〜。」
自販機から飲み物を取り出して、すぐそばの椅子に座る。
葵「みんなどうして話聞いてくれないんだろ〜。」
そう呟きながら飲み物に口をつけると、
雅「そんなに話を聞いて欲しいなら僕が聞こうか?」
葵「えっ?キャッ!?」
突然声を掛けられて、飲み物をこぼしてしまう。
拭こうにも財布だけ持って来たので他に何も持っていなかった。
雅「あ、ごめん。これ使って。」
その人がハンカチを差し出す。
葵「す、すいません。」
おずおずとハンカチを受け取り、拭き始める。
葵「あの、ありがとうございます。」
拭き終わると、一応お礼を言う。
雅「いや、急に話しかけた僕が悪いから。」
葵「あの、ハンカチ洗って返したいんですけど…、あれ、もしかして…冴島雅人、さん?」
雅「あ、まあ。…少し僕も知ってもらえるようになってきたのかな?」
よく見ると、最近若手俳優の中で演技力の評価が高い冴島雅人だった。
雅「君、確か欅坂46の原田さん、だよね?」
葵「は、はい。欅坂46の原田葵です。」
雅「冴島雅人です。よろしく。」
そう言って右手を差し出したので、私も手を出し握手をする。
雅「あ、握手券無しでこんな事したらファンの方に怒られるかな?」
葵「握手会の事ご存知なんですか?」
彼はニコッと笑うと、
雅「僕も18歳の高校生だもの、ネットで見たり調べたりする世代でしょ?それに、皆さんの曲は結構聞いてますから。」
葵「本当ですか?ありがとうございます!」
雅「あ、原田さんはお幾つでしたっけ?」
葵「17歳の高校2年生です。」
雅「そうか、僕と1つしか変わらないんだ。」
葵「…やっぱり幼く見えますか?」
多分不満気な表情が出てしまっている。
番組でも、メンバーにもそうやってイジられるし。
でも、
雅「確かに童顔だとは思うけど、それは原田さんの長所じゃないのかな?」
葵「え?」
雅「欅さんは妹キャラ的な人がほとんどいないでしょ?そう考えたらオンリーワンの個性って考えて良いんじゃない?」
葵「あ、ありがとうございます。」
雅「ちょっと偉そうだったね。あ、そろそろ時間だ。それじゃあどこかの番組でお会いする事があったらよろしくね。」
スッと立ち上がる彼に、私も立ち上がって
葵「こちらこそよろしくお願いします。」
と頭を下げる。
すると、下げた頭をポンポンとされ
雅「僕一人っ子だからさ、君みたいな可愛い妹が欲しかったんだ。じゃあ。」
私は頭を上げられなかった。
顔に熱が集まるのを感じていたから。
葵「あ、ハンカチ…。」
私の手には彼のハンカチが残されていた…。