No.3
店に入っても、地元の話で盛り上がる彼と奈々未。
会話に入れず、手持ち無沙汰な私は飲み物のストローをいじるだけ。
こんな事になるなら奈々未じゃなくて、まいまいに頼めば良かったかな、なんて考えも浮かんでくる。
しばらくすると、
奈「飛鳥?せっかくなのに本田君と話さなくていいの?」
そう声を掛けられたが、
何だかモヤモヤしていた私は、
飛「別にいいよ。2人とも楽しそうだし、地元の話は私には入れないし。…暁さん良かったね、地元の有名人とお知り合いになれて。」
奈「ちょっと飛鳥?」
暁「………。」
私はカバンを持って立ち上がる。
飛「…私帰る。私が誘ったからお支払いはしてくから。後は2人でごゆっくり。」
暁「あの、齋藤さん…。」
奈「飛鳥待って。」
2人に声を掛けられたが、もう止まらなかった。
飛「暁さんのばーか…。」
そう言い残し、個室を出た。
店を出てから、空を眺めながら歩き始める。
そして思う。
と言うよりも、そう思おうとしていた。
あの時感じた胸のザワザワはきっと勘違いだったんだと。
私には恋なんて必要ないんだと。
なのに、何故か空が滲んで見える。
私は必死にその涙が溢れないよう、足早に駅へ向かう。
そんな私の左腕に少し力強い手の感触。
足を止め振り返ると彼がいる。
彼の顔をじっと見ると、慌てて『ごめんなさい』と言いながら手を離す。
飛「…なんですか?」
暁「あの、さっきはすいません。」
飛「…どうして謝るんですか?」
暁「…齋藤さんと話すのは緊張してしまって…。なのでその緊張感から逃れるのに橋本さんとああして喋ってました。」
飛「………。」
確かに今日会ってから私とは目が合わなかった。話しかけた時も、話しかけられた時も。
暁「…今まで生きてきて一番可愛いと思った人だから、あの…直視出来ないです。」
そんな風に言われると、さっきまで自分の中に渦巻いていた負の感情があっさりと吹き飛ばされそうになる。
いや、待てよ。
まだ、彼は明確な答えを口にはしていない。
可愛いと言ってくれたが、それはそれ。
思わずニヤケてしまいそうだった顔を引き締め、彼の言葉を待つ。
暁「…あれから色々調べたんです、齋藤さんの事。そうすればするほど益々魅力的で…。今日会ってしまうと、もう止まらなくなると思ったんです。」
飛「…止まらなくなる?」
私が問いかけると、今日初めて目が合う。
暁「…齋藤さんを好きになる自分がです。」
照れながらそう言った彼の胸に飛び込む。
飛「もっと飛鳥ちゃんの事好きにしてやるからな。」
暁「あの。」
飛「何?」
暁「齋藤さんの写真集買ったので、サイン書いてもらえませんか?」
飛「うん、いいよ。」
暁「それと。」
飛「うん。」
暁「白石さんの写真集も買ったので、そちらに白石さんのサインを貰うことって…。」
飛「………。」