No.3
最近、橋本さんからやたらと連絡が来る。
最初はメールでのやり取りで済んでいたが、近頃は電話も多くなり、ついには『2人で会えませんか?』という言葉も出てくるようになって来た。
さすがに麻衣の手前、2人で会うという訳には行かないのでやんわりと断っていた。
そんなある日、再び橋本さんから電話が。
真『結城です。どうされました橋本さん?』
奈『…すみません。ちょっと…結城さんの声が聞きたくて…。』
電話越しに聞こえる声は掠れていた。
真『…泣いているんですか?』
奈『…ごめんなさい。迷惑でしたよね、もう切ります。』
その言葉に思わず、
真『…夜お時間ありますか?お話伺いますよ。』
奈『…ありがとうございます。』
電話を切った後、溜め息をひとつ吐き、
真「…これが最初で最後、もうこんな事終わらせないとな。」
そう呟き、椅子にもたれた。
その夜、以前麻衣と3人で会った店で待ち合わせをする。
真「お疲れ様です。」
奈「ごめんなさい。無理に時間を作ってもらって。」
真「そんな事はないですよ。さ、何飲まれますか?」
奈「じゃあ…。」
頼んだ飲み物に口をつけながら、話を切り出す。
真「…何があったんですか?」
奈「…………。」
真「…泣きながら電話してくるくらいですから、何かあるんですよね?」
奈「…私のことどう思いますか?」
真「どうというのは?」
奈「異性としてどうですか?結城さんの琴線に触れませんか?」
真「…素敵な女性だと思います。ですが恐らく橋本さんがおっしゃりたい意味合いで自分は見ていません。あくまで麻衣の大切な友人として接しているつもりです。」
奈「…私に魅力がないってこと?」
真「そうではありません。ですが、自分にそんな気は全くありませんから。」
奈「…私が結城さんの事が好きだって言っても?」
真「橋本さんのような方にそう言って頂けるのは嬉しいですが、自分には麻衣がいますから。」
奈「…やっぱりまいまいには勝てないか…。」
真「橋本さんなら自分なんかよりもっと素晴らしい男性に出会えますよ。」
奈「ふふ、ありがとう。…あ〜あ振られちゃった。結構本気で言ったんだけど…。さてと、まいまい出て来て〜。」
真「え?」
そう言うと、個室のドアが開き麻衣が姿を現わす。
麻「…真ごめん。試すような事して。」
真「どういう事?」
奈「私が言ったの。」
真「橋本さんが?」
奈「結城さんが本当にまいまいの事幸せにできる人か確かめたいって。私は、ううん、メンバーみんなまいまいには幸せになってほしいって思ってる。誰より周りの人の事を考えて生きていたまいまいが、やっと自分の幸せを考えてくれるようになったんだから。」
麻「ななみん…。」
奈「結城さん。」
真「はい。」
奈「まいまいの事幸せにしないと、メンバー全員でとっちめますからね?」
真「任せてもらえますか?麻衣の事。」
奈「じゃあ私の前で愛を誓いなさい。」
真「わかりました。」
麻「えっ?」
立っていた麻衣を抱き寄せ、キスをする。
唇が離れた後、
真「俺が麻衣の事、一生守るから。隣で笑っててくれますか?」
麻「…はい。」
顔を赤くしながら答えた麻衣を強く抱き締めた。
麻「ちょっと真、ななみん見てるから…。」
奈「真君、もう十分わかったわ。まいまいの事頼んだわよ。」
真「はい。」
返事をしながら身体を離す。すると、
奈「さてと、これから先は若い2人でどうぞ。」
真「お見合いの仲人みたいなセリフですね。」
麻「そうだよ、3人でご飯食べようよ?」
奈「2人見てたらもうお腹いっぱい。じゃあお先。」
そう言って席を立つ橋本さん。
部屋を出る間際、自分の耳元に顔を寄せ、
奈「…さっきの告白、半分本気だったんだからね。」
真「…え?」
奈「まいまいじゃあね。またご飯行こうね。」
そう言ってニヤリと笑う橋本さんは帰って行った。
麻「ななみんなんて?」
真「…麻衣の事泣かしたら許さないって。」
本当の事は橋本さんとの秘密だ。
奈「…まいまいいいなぁ。」
この胸の痛みをどうしたらいいのだろう。5年間の恋愛禁止はその答えの解き方を簡単に思い出させてはくれないみたいだ…。