No.2
小「なんだよ〜。せっかく一緒に温泉行けると思ったのになあ。」
電話が切れた後、そう呟きソファに腰を下ろした。
私にとって歩はただの同級生でも親戚でもなく、特別な感情を抱いていた。
アイドルになった私にも今まで通り接し、小さな変化にもすぐに気付いてくれる彼は私に欠くことのできない存在になっていた。
小「いつになったら私の気持ちに気付くんだよバカ歩…。」
彼には決して届かない声や想いをどうしたらいいのだろう。
今日もこのモヤモヤした気持ちを抱いて眠ることになった。
翌日、歩から温泉旅行に関する詳細なメールが届く。
それを見て閃いた。
小「そうだ…。」
私はすぐに行動に移し準備する。
小「これで良し、と。…喜んでくれるかな、歩。」
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ある日のこと、彼女から電話がかかって来た。
歩『もしもし、小百合どうしたの?あ、ツアーとバースデーライブお疲れ様。』
小『うん、ありがとう。あのね今日夏休みの課題の収録があってね、それで…成功しました〜。』
歩『本当?よかったね、おめでとう。あ、身体は大丈夫か?どこか痛めたりしてない?』
小『うん全然平気。やっぱり怖かったけど、歩のご褒美のおかげで頑張れた。』
歩『それは何より。じゃあ温泉旅行楽しんで来て。』
小『あ、あのそれでね、歩にお願いしたい事があるんだけど…。』
歩『お願い?どんな事?』
小『あ、明日の夜って空いてる?』
歩『明日?うん今のところ何もないから大丈夫だけど。』
小『じゃあ歩の家に行ってもいい?』
歩『俺の家?まあいいけど…。』
小『じゃあその時話すね。行く前に連絡するから、またね。』
歩『あ、ああ。また明日。』
歩「あいつ何の用かな?あ、せっかくだし晩飯用意しておくか。明日の夜は買い物して帰ってこないとな。」
そして翌日、彼女が訪れる。
小「ゴメンね急に家に来たいとか言って。」
歩「いや全然平気。さ、入って。連絡した通り飯も作ってあるから一緒に食べよう。」
小「ありがとう。私、歩の作るご飯好きなんだ〜。」
歩「それはありがとうございます。」
小「冗談だと思ってるでしょ?」
棒読みのセリフで返すとプク顔をする彼女。
怒ってますアピールかも知れないが、
歩「そんな顔しても怖いどころか可愛いだけだし。」
小「………バカ。」
顔を真っ赤にしている彼女。
歩「で、今日はどうした?何か用事あるんだろ?」
小「あ、うん。でも歩のご飯食べてからね。」
歩「おう。」
食事を始めたが、相変わらず食べるのが遅い彼女。結局、食べ終わるまで1時間半ほどかかった。自分は15分ほどで食べ終わったが。
小「ご馳走様。美味しかった〜。」
歩「お粗末様でした。食器片付けるわ。」
小「ちょっと待って。先に話を聞いて。」
歩「おう、わかった。」
再びイスに座ると、深呼吸をして話し始める彼女。
小「あのね、今度の温泉旅行なんだけどね。」
歩「うん。」
小「…歩も一緒に行って?」
歩「は?」
小「だから一緒について来て。」
歩「いやでも小百合の分しか用意してないし…。」
小「私が歩の分用意したから。」
歩「マジで?」
小「うん。だから一緒に行こ?」
首を傾げながらそう言う彼女が可愛らしくて、
歩「…分かったよ。会社に言って休み貰えるようにする。」
小「本当?…やったチャンス。」
歩「なんか言った?」
小「ううん。温泉楽しみだね〜。あ、私もう帰らなきゃ。明日も仕事早いから。」
歩「そうか。気をつけて帰れよ。」
小「うん。じゃあまた連絡するね、バイバイ。」
鼻歌を歌いながら帰って行く彼女。
見送った後、
歩「明日、すぐ休暇の申請しないと…。」
食器を洗いながらそう考えていた。