No.3
それから3ヶ月。
いつの間にか自分の呼び方は『須藤さん』から『晃君』に変わり、一段と積極的にアプローチをしてくる彼女。
まあ、自分の方がひとつ年下だったのもあるが。
8割方はスルーするものの、あまりにも放置してストーカーまがいの行動をされても面倒なので、と言うかこの間街で自分の後をつけられたので、たまに返事をする事にした。
そして再びスマホが鳴り、確認するとまたしても彼女からだった。
晃「まだ何かあんのかよ。女ってなんでこんなにしつこいんだ?」
これ以上は面倒だと思い、一言返事を返す。
晃『これからバイト。確認も出来ねえからLINE送るのやめてくれ。あんたも仕事だろ?そっちに集中しな。』
マナーモードにしてポケットにしまい、
晃「もう時間じゃねえか、ったく。」
そう呟いて足早にバイト先に向かった。
日芽「…ふふふ。やった今日は返事が来た。」
画面を見てニヤニヤしている彼女の様子を見ているメンバーは、
絵「最近のひめたんどうしたんだろうね?」
飛「なんか怖い…。」
一「そっと見守っていた方が良いんじゃない?」
「「うん」」
…一様に不気味がっていた。
そして一ヶ月が経つ。
あれだけ来ていた彼女からの連絡がパタッと止んだ。
晃「最近連絡来ないな。…まあいいけど。」
そうは言ったが意外と気になっている自分がいる。
アイドル好きのダチによると、選抜とやらになったし、今は全国ツアー中らしく忙しいようだ。
そんなある日、何の予定もなく家にいるとチャイムが鳴る。
晃「誰だ?あいつらなら勝手に入って来るしな。」
そう呟きながらドアを開けると、そこには彼女が立っていた。
日芽「こ、こんにちは。」
晃「ああ、久しぶり。どうかした?」
日芽「あの、実は…。」
そう言えば玄関先で話をしていて誰かに見られても困るだろうと思い、
晃「誰かに見られても困るだろうから上がる?」
そう告げると、
日芽「いいの?」
晃「面倒が嫌なだけだから。別に無理にとは『お邪魔します!』…どうぞ。」
こうして彼女を家に上げ話を聞く事に。
晃「何もないけど。」
日芽「あ、ありがとう。」
お茶を差し出した自分に頭を下げる彼女。
晃「で、どんな用件?」
日芽「あ、うん。実はこれを受け取って欲しくて。」
彼女が出したのはコンサートのチケットだった。
晃「これってあん、…日芽香さんのグループのやつ?」
鋭い目で睨まれたので、思わず名前で呼んでしまった。
名前で呼ぶとご機嫌な様子で口を開いた。
日芽「そう。神宮球場でやるライブのチケット。晃君に来て欲しいんだ。」
そう言った後、今度は真剣な表情で自分の顔を見る彼女。
晃「…いいよ。バイト休みにしてもらって行くわ。」
日芽「本当に来てくれるの?」
晃「行かなくていいなら行かないけど?」
日芽「ダメ!絶対来て!」
晃「なら何でそんな事言ったんだよ。」
日芽「…半分くらいは断られるかなって思ってたから。」
ホッとした様子でお茶に口をつける彼女に、
晃「少しだけ興味あるから。あん…日芽香さんの仕事に。どんなもんなのか見せてもらうよ。」
日芽「うん、楽しみにしてて。じゃあこれ持って来てね。」
そう言って彼女は今度はカバンの中から、グッズを出し始めた。
晃「…何これ?」
日芽「これはサイリウムでこっちは私の推しタオル。サイリウムはファンの人達みんなライブ中振ってるから。」
晃「それは勘弁して『あん?』…わかった持ってく。」
日芽「うん!」
そしてライブ当日。
晃「すげえ人だな。」
人の多さに驚きながら彼女に用意された席に向かう。どうやら関係者席の隅の方だ。
ライブが始まり、彼女達のキラキラした姿に目を奪われた。
何かに真剣に取り組む姿勢はどんな仕事でもスポーツでもその人達を輝かせるんだと改めて思った。
晃「俺も負けてられねえな…。」
彼女の歌い踊る姿を見ながらそう呟いた。
ライブが終わり、彼女にLINEを入れる。
晃『お疲れ。アイドルって凄いんだな。感動したし、なんかキラキラしてたわ。これからも頑張れよ日芽香。応援してる。』
日芽「…初めて呼び捨てしてくれた。ふふふ。」
絵「ねえまたひめたんスマホ見ながら笑ってるよ…。」
飛「うん、やっぱり怖い…。」
美「ねえそう言えばさ〜、関係者席に超イケメンな人いたよね〜。」
麻「あーいたいた。カッコよかったよねー。」
沙「うんうん。でもその人ひめたんの推しタオル持ってたやんか。」
「「「もしかして…。」」」
絵「ねえひめたん?」
日芽「ん?なあにいくちゃん?」
絵「関係者席にいた人のことでじ〜っくりと聞かせてもらおうかな〜?」
「「「ふふふ」」」
日芽「え?あ、ちょっとみんなまで何?」
「「「あの人はだあれ?」」」
日芽「ぜ、絶対教えなーい!!」