渡辺美優紀
01
 不思議な体験に、少年は先ほどから首を傾げています。渡辺麻友の最後の言葉。なぜあの場面でお礼を言うのか、彼には理解が出来なかったようです。血に染まったボウイナイフを手で(もてあそ)んでいると、付着した血が地面に無数の点を作ります。それはまるで星空のよう。地面に散りばめられた星屑は、彼女たちの生きていた証拠――。
 
「あと三人か。早いなあ」
 
 真上にあった太陽が傾きかけてきました。日没まであと数時間。少年は寂寞(せきばく)にも似た気持ちで、彼女たちを探しに向かいます。
  
  
  
 女性が泣いています。彼女は溢れ出る涙を止めようとしているようですが、涙は止まってくれません。
 ずっとニコニコとしていた彼女。今はその表情からかけ離れています。何がそんなに悲しいのでしょうか。
 
「みるきー見つけた」
 
 広いこの公園の中央。そこに噴水があります。渡辺美優紀はそこで一人泣いていました。
 
「どうして泣いているの? お腹でも痛いの?」
 
「……ちゃうねん。彩ちゃんから嫌われてんねんな、私」
 
 少年はそのまま彼女の横に座りました。円の形で作られた石の椅子。背中からは絶え間なく水が跳ねる音がします。
 
「そう」
 
 ここにいると風が心地良いです。歩き回った彼の火照った体を冷ましてくれます。
 彼がそっけない返事をしたせいでしょうか。渡辺美優紀は黙ってしまいました。涙こそ止まったようですが、赤く充血した目で地面の一点を見つめるだけ。鬼ごっこが始まる前とは、まるで雰囲気が違います。
 
「どうして泣いていたの?」
 
「彩ちゃんに嫌われてしもうたから」
 
「どうして嫌われたの?」
 
「私が嫌われるようなことをし続けてんたからかな」
 
 自嘲するように笑った彼女の顔は、寂寥感(せきりょうかん)に満ちていました。


はるる ( 2013/09/29(日) 16:23 )