02
悲鳴の連鎖。まるでこの世の終わりを意味するかのような彼女たちの悲鳴に、あれだけ鳴いていた蝉の声が途絶えました。
公園に似つかわしくない火薬のにおい。誰かが嘔吐してしまったのでしょうか。嘔吐物の臭いもします。
「た、たかみな……。嘘だよね?」
彼女たちは高橋みなみから背を向けています。唯一、篠田麻里子だけが彼女の亡骸に語りかけるようにして尋ねました。
亡骸――そう、もうこの世に高橋みなみは存在しません。脳天を鉛が貫通をし、即死したからです。少年の言う『パァン』とは、銃のことだったのです。もちろんそんなことを知らない彼女たちは、阿鼻叫喚しています。
「なんてことを……」
吐き捨てるように言った渡辺麻友の目には大粒の涙が浮かんでいます。その滴は造形のような頬を伝い、若い芝に落ちて行きました。
「ちょっと! これは一体どういうことなの!」
苦楽を共にしてきた盟友の存在を失った篠田麻里子は怒りを露わにします。彼女の怒声にすくみ上がった宮脇と児玉は、互いを抱くようにして震え上がっています。
「どうもこうもないよ。たかみなが『パァン』を選んだから、そうしたまでのこと。さ、早く次にいこうよ」
悪びれもせずに言った少年に、周囲からは小さな悲鳴が上がりました。
自分たちはなんととんでもない悪魔に出会ってしまったのでしょう。彼女たちは今更ながら後悔します。
「冗談じゃない。私は絶対嫌よ」
そんな中にあって、篠田麻里子の態度は毅然としていました。周囲よりも頭一つ飛び抜けた身長で、少年を見下します。
が、その足はガクガクと震えていました。彼女も怖いのです。恐怖と戦っているのです。
「鬼ごっこをしないのなら、鬼に捕まったとみなすよ。じゃあ、麻里子さん。『パァン』と『グサッ』どっちがいい?」
「どっちも嫌」
キッパリと言い放つ篠田麻里子に、或る者は尊敬の念を抱き、また或る者はヒヤヒヤとしながら事の成り行きを見守っています。
「どっちかにして。このまま鬼ごっこを続ける? それとも止める?」
「止めるで」
「じゃあ、『パァン』と『グサッ』どっちがいい?」
「両方、嫌」
「もう。それじゃあダメなのに」
シュンとしてしまった少年。普段の彼女であれば、きっと彼のために何かをしてあげることでしょう。しかし今の彼女にはそんな気は毛頭ありません。震える足をギュッとつまみながら少年に冷徹な視線を浴びせています。
「じゃあこっちで選んじゃうね」
「逃げて! 麻里子様!」
少年が銃を構えたのと同時に松井珠理奈が叫びました。