2-1
あ…触られてる…。
友達との罰ゲームで、女装して学校に通うこと4日目。
月〜金までの5日間、というルールだったが4日目にしてこんなことになるとは。
スカートの中まで手が入ってくる。
大声で痴漢だと叫んでもいいが、野太い声が電車中に響くのもそれはそれで苦だ。
来週から元の姿に戻ったときにもうこの電車に乗れなくなる気がした。
ただその場に立ち時が過ぎるのを待っていたその時…
触っているその手を強く引き剥がす感触があった。
『なぁなぁおっさん…痴漢…バレてんで?』
落ち着いて大人しい、しかしかなり強い口調で目の前の彼女はそう言った。
自分より…ちょっと年下くらいかな?
その直後、電車は減速し駅に着いた。
『ほら、とりあえずあんたは降りぃ?あ、あとお姉さんもね。ごめんな?余計なことしちゃったかな…』
もし僕が女だとしたら目の前の彼女には感謝してもしきれない状況だろうが、
今の僕が女ではないと考えれば余計…なのかもしれない。
たぶん彼女の中で僕は、
『恐怖で震えて声すら出せなくなってしまって可哀そう』
なのだろう。
実際は、
『声を出して男だとバレた瞬間やばくなりそうだからとりあえず縮んでおこう』
なのだが。
駅事務室に行き、警察を呼んでもらった。
被害者と加害者、という関係から男とは別の部屋で、彼女と一緒に警察に話すことになった。
まだ自分が女装しているとは切り出せていない。
警察が来るまでの間、覚えていることを鮮明に話すように、と駅員さんに促された。
ここで声を出してしまえば自分が逆に痴漢にされてしまうのではないか…
と思い、スマホのメモを出した。
『体調が悪くて声が出ないので、筆談でもいいですか?』
駅員さんは首を縦に振った。
それにしても不思議な気分だ。駅員さんも横に座る彼女も、自分のことを女として扱ってくれている。
そのあとはウソをつくわけもなく、触られたその時の記憶を呼び起こし鮮明に書いた。
警察が来てその時の状況を再確認し男が警察署に連行されたところで、彼女と自分は解放された。
メモを開き、『ありがとうございました』と打とうとしたそのとき、
『お姉さんの女装、なかなか似合ってるやん。ただ、もう少し…仕草を女子っぽくしないとなぁ』
…気づかれていた。完全に気づかれていた。
お姉さん、と呼ばれるのは新鮮だったが、男だということは完全にバレていた。
『あ、ただ駅員と警察、それから痴漢した本人もアンタのことはまだ女だと思ってると思うけどな〜笑』
と付け加えてくれた。
いつ気づいたか、と聞くと
『昨日。明らかに仕草がおかしい子がいるなぁと思って気になってたら…』
とのことだった。
『年下の女の子に痴漢から救われた男』はあっという間にクラスで話題になった。
翌週、今まで通りの格好に戻った僕に、同じ電車に乗る彼女は軽くウィンクをしてくれた。