1-6.最後の線香花火。
すべてを覚悟したかのようにそう言うと、美玖ちゃんは天井を向いて仰向けで寝転がった。
勿論聞き返した。一晩…過ごす…?何の真似なんだ?
いくら聞いてもそれまでだし、いくら考えても答えは出てこなかった。
色々気になったこともある。
今までいくつの島を渡り歩いてきたのか、いつから旅をしているのか。
ただそれを質問しても何もボクに得るものは無い気がした。
玖:翔さん…ダメ…ですか?
ダメなんてもんじゃない。そもそも今日の朝はそれを望んでいたくらいだ。
ただいざそういう状況になると、しかも状況が状況だと、つい躊躇ってしまう自分がいた。
玖:ごめん…なさい…こんな…。
褒められるのには慣れていなかったが、謝られるのにはもっと慣れていない。
まして女子に謝られるなんて…。
玖:翔さん…緊張してます…?それなら…ほぐしてからにしましょうか…?
彼女のすべてを受け入れるしかないと思った。
自:うん…じゃあ…お風呂入ってからにしようか。今日一日動き回ったし。
玖:もちろんです…♡準備しますね?
ボクと美玖ちゃんは身に着けていたものを全て脱衣所に置き、風呂の扉を開けた。
朝溜めたお湯が保温機能のまま湯気を立たせていた。
二人で入る湯舟は少し狭い。出会って2日目の女子とこんなこと…
まだ罪悪感が残っていた。
ただ美玖ちゃんが望んだことなら受け入れるしかない。
朝まであった欲はどこへ忘れてきたのだろうか。
少し早く風呂を出て部屋で扇風機の風を浴びていると、バスローブ姿で美玖ちゃんは戻ってきた。
冷蔵庫で冷やしていた酒を開け、コップに注いだ。2人でグラスを軽くぶつけ、ぐぅっと一気に飲んだ。
2人で飲み、少し談笑しながら時が過ぎていくのを感じた。冷蔵庫のストックが空になると、ボクも少し酔いが回っていた。
飲む前に、『私、強いんですよ?笑』なんて言ってた美玖ちゃんでさえも、顔が赤くなっていた。
ボクは美玖ちゃんを精一杯抱きしめた。忘れられない夜にしよう。そう誓った。
島を渡るたびに男と過ごす。その言葉に嘘は無かった。
高校生とは思えないカラダ裁き。少なくともボクが人生で経験した中でかなり…すごかった。
語彙力を失ってしまうほどのモノだった。
『あぁっ…んんっ…♡もっと…もっと…♡激しく…♡あぁっ…♡翔さん…♡そんなものですか?♡』
さっきまで大人しかった美玖ちゃんの変貌に興奮を抑えられなくなった。
美玖ちゃんの2つの山を鷲掴みにし、激しく揺れ動かした。そのたびに彼女の口から甘い声が漏れる。
高校生らしからぬ、色気を含んだ嬌声。その甘い声が脳を刺激していく。
私も感じてるんだから、キミも感じなさい。そんな感覚があった。
あの時のボクのカラダは美玖ちゃんに完全に支配されていた。
ただ彼女のいいなりになって動くだけ。それでも快感が止まらなかった。
『ほら…もっと強く…胸を揉めばいいの…♡』
そう言われれば両手の動きを強めるだけ。その度に嬌声が漏れる。
言われるがままに腰を動かす。ボクのそれは硬く彼女の中に入り込んでいた。
彼女の壁にそれが擦れる度、脳が刺激される。ただの上下運動にこれほどまでに快感を覚えたことは無かった。
彼女の言いなりになるままにカラダを動かし、何か言葉を待つこともなく彼女の中にすべてを出した。
そのあとの記憶は無い。
気が付くとお互いハダカのまま、その場に突っ伏していた。
彼女はこれで満足なのだろうか。自分探しの旅になっているのだろうか。
またそれから気を失ったように眠り、再び目が覚めた時には空には太陽が高く昇っていた。
美玖ちゃんは帰りの支度をしているところだった。今日は本当に船が出る。船の出航まで残り2時間。
玖:翔さん…?昨日…私変な事してませんでした?大丈夫でしたかね…?
どこまでが変じゃないことで、どこまでが変なことなのかボクには分からなかった。
自:うーん…変なこと…?大丈夫じゃないかな?たぶん笑
玖:それならいいんですけどね…?昨日の夜、久しぶりにお酒なんて飲んだから…記憶なくなっちゃって…笑
自:今から帰るのに…船で大丈夫なの?
玖:それなら大丈夫です!いっぱい寝たからすっかり元気になりました!笑
自:あ〜そっかそっか、それならよかった。
そのとき、ふとあるものの存在を思い出した。
戸棚を開ける。これ…まだ火点くのかな…。
自:ねぇ美玖ちゃん…線香花火…やらない?
玖:こんなお昼にですか?笑
自:それがいいんじゃん笑昼にやる線香花火、意外ときれいなんだよ?
玖:え?そうなんですか?知らなかったなぁ…笑あ!
自:ん?どしたの?
玖:え〜秘密ですぅ〜笑ちょっと用意してきて…いいですか?笑あ、絶対覗かないでくださいね?
鶴の恩返しばりに念を押すと、美玖ちゃんは奥の部屋に消えて行った。
20分ほど経ち、部屋のふすまが開くと、浴衣姿の美玖ちゃんが目の前に現れた。
玖:せっかく花火やるならぁ…味出した方がよくないですか?
それもそうだ。せっかく買ったんだったら着ないと損だな。
ろうそくに火を点け、2人で1本ずつ線香花火を持った。
玖:じゃあ…どっちが長い時間できるか勝負ですよ?笑
望むところだっ…と始めたのはいいが結果はボクの惨敗。
5回勝負をして勝った回数は1回だけだった。
玖:うーん…翔さん負けすぎだからなぁ…なんか罰ゲーム!!なんかいい罰ゲーム無いですか?
まさか自分で罰ゲームの種類を提供することになるとは思わなかった。
自:えぇ〜?罰ゲーム…?なんも思いつかないなぁ…。あ!じゃあ…美玖ちゃんの願い事、4つ叶えてあげるよ?
玖:4つかぁ…どーしよっかなぁ…
しばらく悩み、美玖ちゃんは願い事を絞り出した。
玖:1つ目は連絡先を交換する!これは絶対!!…2つ目はこの後桟橋までお見送りする!!…3つ目は…次この島に来た時家に泊めること!
玖:4つ目は…今度来た時に考えます!じゃあ…1回勝ったんだし、翔さんからの願い事も1つ聞きますよ?
自:じゃあ…お別れの前に、ハグしてくれる?
玖:え?そんなことでいいんですか?お願いなら…もっと大きな願い事でも叶えますよ?
自:いいのいいの。大きさじゃなくて…思いだから?あ、ちょっと格好つけちゃった笑
美玖ちゃんも分かってくれたみたいで、ボクにしっかりとハグをしてくれた。
船が出るまで残り30分。全ての荷物を持って家を出た。
桟橋に向かうと、既に多くのお客さんが乗船の手続きを進めていた。
自:あぁ…今日は本当に出発しちゃうんだね笑昨日みたいなことにはならずに…
玖:まぁ…きっとまたすぐ来ますよ?笑そんなに美玖に会いたいなんて…もう美玖のこと、推すしかないですね笑
美玖ちゃんが手続きを済ませると、最後にもう一度ハグをした。
自:美玖ちゃんにとっての『自分』を見つけられたかな?
玖:うーん…どうですかね?でも、人の温かみを感じられました笑ではでは、またお会いできるのを楽しみにしてます!
その言葉を最後に、美玖ちゃんは船の中に消えていった。
楽しかった僕の八月は、まだ始まったばかり。夏休みは20日も残ってるんだから。