1-3.儚いものって 忘れられない。
ボクは美玖ちゃんを連れて家に帰ってきた。
そういえば…戸棚に花火をしまってたっけな。
自:あ、どぞどぞ入って!ゆっくりしてってねぇ〜
玖:おっじゃましまーっす!
美玖ちゃんを居間に通してボクは花火を探した。
…結果からいうとドカンと一発上げられるような花火は持ち合わせが無かった。
戸棚にあったのは線香花火だけ。
ちょっと残念に思いながら居間に戻ると、すやすや寝息を立てながら美玖ちゃんは寝ていた。
この寝顔が可愛いんだな。うん。
女の子が畳の上に直で寝てるなんてカラダ痛めちゃうだろうから…と思って布団敷いてそこまで移動させようと思ったんだけどこれが大変だ。
女の子抱きかかえて移動なんてした経験なかったから心臓ばっくばく。
…しかもそこで美玖ちゃんを起こしちゃったのよ。ごめんっ!って謝ったら、
玖:いえいえ…ほんと何から何まで翔さんにやってもらっちゃって…。
って。半分ボクが勝手に連れてきたもんだから気にしないで!って言ったけどやっぱ思春期の女の子が男の家に泊まるなんて緊張するよね。
あの夜は…8月にしては涼しかったな。冷房いらずのあの頃。
…
翌朝、美玖ちゃんの様子を見に居間に行ったら誰もいなかった。
その代わり、きちんと畳まれた布団の上に一枚の手紙。
『昨日はありがとうございました!とても楽しい一日でした。
本当は昨日のうちに直接お礼を言いたかったけど、翔さんがあまりに気持ちよさそうに寝てるから。
お邪魔しないように手紙にさせてもらいました!
それにしても翔さん…本当に起きないんですね。
気づいてほしくて…ほっぺに…いや、この辺でやめておきますね笑
私は今度の便で戻ります!あのお寿司…また食べたいな笑』
こんな長い文章いつの間に…というレベルで置手紙を書いてくれていた。
家から船が出る港まではチャリンコで3分。
船が出るまでの時間は10分。行ける。
急いで着替えを済ませ家を飛び出し全速力で港に向かう。
夏の暑い日だというのにそんなもん物ともせず全速力で。
港に着くと、既に船の乗船手続きは終了していた。
美玖ちゃんは乗り込んだ後だったのか?
ボクの方こそお別れが言えなかったのが残念で仕方が無かった。
船は定刻通り、大きな汽笛を鳴らして出発して行った。
…
かなり残念な気持ちになりながらボクは家に戻った。
部屋の片づけと…あ、そうだ。線香花火。
美玖ちゃんと一緒に…やりたかったなぁ。
…
玖:あれあれ?翔さーん?ぼーっとしてどうしたんですか?笑
!?
出発した船に乗ったはずの美玖ちゃんが急に出てきたから、色んな感情が爆発して急にハグをしてしまった。
そしたら、ぎゅーっと返してくれた。
自:え、美玖ちゃん帰ったんじゃ…無かったの…?
玖:え?帰ってないですよ笑ほら…ここに書いたでしょ?今度の便で帰る…って笑
ここで思い出した。この島の港から出る船の行先はいくつかあって、その中でも美玖ちゃんが乗ってきた便の折り返しは週1便。それも翌日の朝だって。
自:じゃ…じゃぁ…なんでわざわざ手紙なんて?
玖:手紙の中に書いたじゃないですか!その日のお礼はその日のうちに…と思って。お別れの手紙じゃないですよ笑
…全くだ。何も考えていなかった。ただ…とても嬉しかった。
美玖ちゃんともう一日過ごせる。それだけが、嬉しかった。
あ…そういえば手紙の最後…
自:ねぇ…ほっぺに…って…なに?笑
玖:あーなんのことだろーなーちょっとお散歩いってこよーかなーあははは…
ったく。そんなところまで可愛いんだから。