しあわせを見つけて
01
 麗らかな空気を吸い込んだ日差しが店の入り口から降り注ぎ、温かくも店内は静寂を保っていた。
 カウンターに並ぶ写真立てには、幼くも無邪気にカメラに向かってピースサインをする自分の姿。この写真を撮ったのは少年が十五歳の誕生日を迎えた時のもの。顔や腕には白いペンキが斑点を描き、黒地のパーカーにまで飛び散っていた。しかし、写真の中の彼はそんなことを一切気にする様子もなく、ただただ笑っている。
 当時を思い返すかのように、そっと微笑む少年は手にしていた写真を元の位置へと戻す。

 背中を向けていた店内へと体を向けるようにその全体を見回すと、一つ、二つとまた記憶が蘇る。カウンターを挟みながら笑い合った常連客とのたくさんの会話。休憩中に食べたオムライス。店が暇な時間には丸イスに座って、店主に隠れて読んだ小説の数々。そのどれもが懐かしいと思えることだった。

「ゆずくん、みんな集まってるからそろそろ上行かないと」

「今行きます」

 短く返して、掛け時計を見る。
 掛け時計もこの店の開店当初からこの場所でずっと時を刻み続けてきた。スミレ屋の店主から開店祝いに贈られたものらしく、少年よりも二年ほど先輩になる。

「もう七年か…」

 階段を降りて、いつのまにか少年の隣でカウンターに座る彼女も懐かしそうに時計を見つめていた。

「七年ってやっぱり早かったですか?」

「うーん、ほら私はスミレ屋で働いてるからあれだけど。うん、やっぱり早かったのかなぁ」

「俺は早かったですよ。十五からここにいて、もう二十歳だし」

「そっか。ゆずくん、中学卒業してすぐだもんね」
 
 後ろの写真立てを手に取ると、彼女は笑った。

「可愛いかったなぁ」

 「へ?それ、俺の写真」照れたように鼻先を掻く。

「なーんか、みんなその写真好きらしくて」

「うん。だって、この写真のゆずくん可愛いし……ほっぺにインクついてるもん」

「悪かったですね、今は生意気で」

 冗談めかすと二人は自然と笑い合っていた。
 彼女が好きだと言う写真は先ほどまで少年が見ていた写真だった。口元の生クリームには全く気づいていないのか、嬉しそうにカメラへ顔を向けている。写真の奥には彼を微笑ましそうに見つめる彼女の姿も。

「さて、行きますか!今日の主役は待つのが苦手で、これ以上は怒られそうだし」

「あー、今の言っちゃうよ?」

「おっかしーな、二人の秘密じゃかなったかな」

 「じゃあ、そうしてあげる」少年を見上げ笑う彼女も立ち上がる。
 五年前の彼はずっとずっと小さかったと言うのに今では彼女よりも少しばかり目線が上にある。それでも少年の笑う表情は当時と変わらず人懐っこい笑顔のままだった。







 

華尾 ( 2018/04/20(金) 03:05 )