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___9回裏、同点で二死満塁
この打者を打ち取って、なんとか甲子園に望みを______。
「…くそッ、またこの夢か…」
目を覚ました僕は呆れたような声でつぶやいた。枕は夢のせいか、はたまた残暑のせいか汗を染み込んで湿っていた。
時刻を確認する。8月28日、時刻は深夜3時を回ったところだった。まだ残暑が厳しく寝苦しい上に、こんな夢をみては起きてしまうではないか。
夏の大会が終わってからというもの、毎日この夢を見る。
「ダメだ、もう一回目ぇ瞑ったらまた見ることになりそうだわ」
眠気はあるが、寝苦しい中寝ても変わらないだろう______。
そう考えた僕は枕元の携帯電話を手に取った。
お気に入りの四葉のクローバーの待ち受けの上に通知が一つ来ている。
「…丹生?しかも五分前ってなんでこんな時間に?」
【ごめん!なんでもないよ!】
通知をタップし、彼女とのトーク画面を開く。
同じ学校に通っている友人だが、規則正しい生活を送っている彼女が普段こんな時間に起きているはずもない。
【明里がメッセージの送信を取り消しました】
トーク画面を開くと、無機質な文章が一つ、その後に先ほどの謝罪の件が記されていた。
「…こんな時間になんだ。」
《どうしたんだ?》
【ごめん、ほんとになんでもないんだ。起こしちゃってごめんね】
《ならいいけど。 ていうかこのせいで起きたんじゃねえし。》
【そうなの? この時間に起きてるのも珍しいじゃん?】
《ちょっとね。丹生こそこんな時間まで起きてるのなかなかないよね?》
【そういう日もあるよ!笑 私だってJKだもん!】
《ならいいけど。 ちゃんと寝ないとダメ だぞ?》
【なにそれ、お父さんみたいじゃん。笑】
たわいもない会話。しかしこのお陰で先ほどの気分が幾分か楽になった。
あの時の記憶など完全に忘れてしまいたいものだが______。
【そういえば忘れてないよね?】
《なんのこと?》
【ねーえ!! お祭りに行く話!明日でしょ?】
「…やっべ。完全に忘れてた。」