あぶない体験

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あぶない体験
絵里と千春2
余談だが、絵里の家は賃貸の1人用1Kマンション。とは言えその作りは古く、
3階建て、校舎の階段の様に半分階を上がると、くるりと向きを変え上がって
2階。そして同じ感じで3階となり、各階は階段を上がると、真直ぐ廊下が
あり、右に2部屋、突き当たりも2部屋、左にも2部屋とコの字に部屋が配置
してある。

絵里の部屋は3階の廊下左、階段手前側、そのまま4階と言うか、屋上に
上がる階段があるが、見方を変えると、丁度絵里の部屋を背中にして右側が
その屋上階段となる。只そこは扉がついてて鍵が掛かっているが、壊れてる。
その扉を開け、半分階上がると丁度右の壁面、膝あたりに丸い5cmくらいの
換気口が空いていて、絵里の部屋が覗けた。何故知ったかと言うと、たまたま
絵里の部屋に泊まって朝起きた時、

屋上に上がる足音が聞こえ、多分何かの設備業者だと思うけれど、絵里の
部屋の中側。玄関右上の換気口の奥が光で瞬いて見えたので。瞬く原因も
階段を上がる業者の足が、光をさえぎったりしてそう見えて。そしてはたと
外から中が見えるんじゃないか?と後で気が付いたから。そこを前提にして
欲しい。

絵里のマンションに着くと部屋の明かりを見た。明かりは既についていて、
タクシーでそのまま直ぐ家に帰ったのか。でも秀さんも乗っていたから、
絵里の部屋に居るかもしれない。鍵は貰ってるからそのまま入れるけれど…。
もし秀さんが部屋に居て、俺はどんな顔すれば良い?だんだん玄関を
開けるのが怖くってきた、現実を受け入れられるかな?絵里の部屋の前に
立ち、鍵を持ちながら玄関開けるのを躊躇していた。…そうだ!換気口!

そこから部屋の様子が見えるはず。屋上に向かう扉のノブをゆっくりまわすと
壊れていてあっさり開いた。階段を少し上がり今度は扉を閉める。これで
夜だし、扉を開ける人間は誰も居ないだろう。誰にも気付かれなく絵里の
部屋を確認出来る。覗き行為。犯罪じゃないか?俺こんな趣味あったか?
それに絵里にばれたらきっと変質者扱いされる。今度こそさようなら。でも…

絵里がもし…。俺はドキドキしながら、我慢できずその換気口を覗き込んだ。
そっと覗くと、絵里の部屋全体を見下ろす形で、中の様子は思った以上に
はっきり見る事が出来た。室内の音も聞こえる。絵里は部屋着に着替えた
ところのようで、丁度化粧を落としていた。シンプルで余り飾りっけのない
部屋だが、清潔な感じの絵里らしい部屋だと思う。

そして秀さんの姿は無く部屋に絵里一人だった。正直ホッした。ほんとホッと
した。けれど、じゃあ絵里と秀さんとの関係は一体何なんだ?俺は絵里から
秀さんとの事を何も聞いていない。ひょっとしたら、暫らくしたら秀さんが
来るんじゃ?俺は色々考えて、もう少し様子を見ようと暫く覗いたままでいた。

やがて、絵里はお風呂の湯をためて、テレビをつけ、ベッドに腰掛けると、
どこかに電話を掛け出した。

……「あっあたし、今大丈夫?うん。そう、そう。今日会って相談に乗っても
らった。そう。えっ?違うよwバイククラブの人。うん親切な人だよ。ゆうじ?
最近ちゃんとしゃべってない…。違う。ゆうじはそんな人じゃない。きっと私の
事重く思ってる。負担かけちゃってるのかな。えww又かって何よw
失礼だなぁ」。

油断してた。俺の名前が出た時はビックリした。けれど余計に釘付けになり、
目が離せなくなってしまった。雰囲気からして女の友人?親しげだから
古い友人なんだろうな。でも何でも知っているみたいだけど…。
俺負担になんか全然思ってないのに。重いなんて一言も言ってない…。
しかし、次に大きなショックを受ける台詞が飛び出して、全ては俺のせいだと
分かってしまうんだ。

「ゆうじはね、まだ奥さんの事忘れられないんだよ。だって子供の頃から
ずっと一緒だったんだよ?私なんか…。違うって、只ね前も言ったけれど、
ゆうじのお部屋に泊まった時に、寝言で奥さんの名前呼んでた。今はだい
ぶ無くなったけれど、最初の頃は結構言ってたよ。苦しそうに汗かいてて
呼ぶんだもん」

「私泣いちゃった。えぇ。好きな気持ちは変わらないよ。ゆうじはやさしい
からきっと、私と奥さんの事と色々考えてるんだよ。ほら、負担掛てんじゃ
ん。んでね、今日クラブの人に相談乗ってもらったのは、前に言った
奥さんと会った事。それが…」。。。

え…。千春?絵里は千春と会ったのか?なんで????絵里が、考えて
いる事が少し見えたと同時に、何で千春が絵里と会ってんだ?どうやって
知り合った?全然話が見えない!千春の野郎、今更何考えてんだ。
絵里に何したんだ!お前は俊夫と宜しくやってんじゃないのか?!

…又俊夫に抱かれる千春がフラッシュバックして
だんだん気分が悪くなってきて、絵里の部屋を覗けるどころではなくなって
俺はマンションを出た。動悸が激しく息が苦しい。バイク乗れるか?
乗らんと帰れないし。マンション側近くの公園に行き、缶コーヒーとタバコを
吸って、なんとか気持ちを落ち着かせた。

…千春に会いに行かなきゃ…。



あれから数日。会社での絵里の様子に変わりも無く、相変わらず俺と絵里
との距離は微妙で、でも絵里の気持ちが分かってる分、まだ気が楽だった。
その日会社で絵里に渡す書類の中に、駐輪場で待ってる旨のメモを挟み、
昼休みが始まると俺は駐輪場に向かった。

絵里は既にブロックにちょこんと座っていて、俺に気が付くと立ち上がって、

「何かここでおしゃべりするのって久々だね。どうしたの?」

「いや、まぁゆっくり話そう」
改めて2人コンクリートブロックに腰掛ける。お互い暫く無言のまま、絵里は
パックのコーヒー飲料をストローで飲み、俺はやっぱりパンをかじっていた。

「あのさ…」
「なに?」

「俺今度の三連休に、一回実家に帰ってくる」

「うん」
「けじめな。…けじめつけてくるよ」

…「あのね、私も…実はね」
「いや、今は何も言わなくて良いよ。帰ってきてから話そうか、俺な、向こうに
色んな事、置いたままこっち来たから。絵里と向かい合う為にも、一度戻らな
きゃって思ってるんだ。だから。待ってて?な」

…「わかった」
それから…2言、3言は喋ったように思うが、内容は余り思い出せない。覚えて
いるのは、その後は、お互い殆ど喋ることも無く、駐輪場に並ぶ俺のバイクと
絵里のバイクを二人ずっと眺めていた。


連休初日の朝、電話で絵里に行ってくるからって、「うん、行ってらっしゃい、
事故だけ気をつけてね」。明るく答えてくれた。電話を切り荷物を積込む。
当時の某レーサーレプリカスタイルの青いメットとレーシングスーツを着こんで、
バイクに跨ると、エンジン始動。俺は一路生まれ育った街へバイクを走らせた。

バイクを走らせ、下道で数時間。三年ぶりか?やがて見慣れた景色が目に入り
だし、変わらぬ街並みと海の匂いがして、街を飛び出したのが、本当昨日の
事の様で。このまま千春と暮らしたあの家に戻ると、お帰りって千春が普通に
出迎えてくれるんじゃないか?そんな錯覚を起こしそうになった。でも違う。

直ぐに俊夫の顔が頭をよぎり、千春が赤ちゃんを抱いていて、三人仲睦まじく
この街のどこかで暮らしているんじゃないか?ふっとそんな光景も頭に
浮かんだ。……結局、気持ちの整理なんて全くついてないんだな。今になって
気が付いた。やっぱり千春と会って…、でも会ってくれるだろうか?何しに
来たって又俊夫に殴られるかもな。でも。やっぱり千春に会わないと。

あいつの気持ちを聞かないと。

実家の前にバイクを止めて、只今って、玄関を開けると祖母がびっくりしてた。
祖父の仏壇に線香を上げて、夕方までゆっくりするか。それとも今帰ってんだっ
て仲間の誰かに電話しようか?でも何か街を離れた理由が理由だけに、結局
誰にも電話を掛けそびれていた。同じく絵里にも千春に会う事のためらいが
あって、着いたって電話できずにいた。

結局、母親が夜帰ってきたら、一緒にご飯食べようって話す祖母に、何時もの
居酒屋に行ってくることを伝えて、夜、一人居酒屋に向かった。…久々にお店の
暖簾をくぐると店主が

「ぅお!ゆうじ!お前何時帰ってきたんだよ!」
見廻すと見慣れた顔もちらほら。何か照れくさい。

「いや、ちょっとな」
カウンターに腰掛けると、仲間も声をかけてきて、そこから二、三時間、皆で
昔話と今何しているのか、飲んで喋って。ここだけ昔のままで。只、喧嘩の時に
その場にいた奴もいたのに、誰も千春と俊夫の事だけは触れずにいた。それが
申し訳なかった。やがて夜も更けて、店に店主と俺だけになると、

「今日はもう終いにするか」。
暖簾を下ろし、店主(のぼる)が、

「ゆうじ、久々に2人で飲まないか?時間あんだろ?それに、お前なんかあって
こっちに帰ってきたんだろ?何でも聞いてみろ」

「すまん」
…そこから分かったことは、今も千春は時々店に来る事。俊夫は遠洋の
漁船に乗っていて、今は街を離れている事。2人で暮らしてはいるが、籍は
入れて居ないらしい。子供もいない。そうか…あいつら結婚してないんだ。。

のぼるは
「千春ともし会うんだったら、お前が、以前勤めていた運送会社に行ってみろ。
そこで事務員やってる。お前だったら、千春が仕事終わる時間も分かるだろ。
あいつらお前がいなくなった当初は、皆からつまはじきにされて結構辛かったと
思うぞ。あそこの社長がなんで千春を雇ったのか。何となくわかるけどな」

…「そうか、色々ありがとう」

「うん?俺は何も知らんぞwwそれに店の弁償代あれじゃたらんわwwww」
俺の背中をバンバン叩いて、色々話しこんで、明け方まで2人で飲んだ。
そして。翌日2日酔いで昼過ぎまでぼーっとしてて、祖母にだらしないと怒られ
ながら、昼飯を食って。夕方バイクで運送会社に向かった。

やがて見慣れた運送会社の看板を目にして、バイクを止めると俺はメットを
脱ぎ、事務所の窓の奥に千春の姿を探した。正直どんな感じで声を掛け
ようか?邪険にされてしまうか?無視はつらいな…。それと社長に挨拶も
考えたが千春を見失うかもしれない。出入りするトラックの邪魔にならないよう
バイクを少し離れた所に止め直して、千春が出てくるのを待った。

10分?15分?程経ったろうか、長めの黒髪を後ろで結わえた女性が
事務所を出てきた。影が薄く、痩せていたが…その姿は千春だった。 

「千春!」 

千春はびっくりした顔をして「ゆうちゃん…」

言葉が続かない。色んなことが溢れて、でも全部ぶっ飛んでしまって

「千春痩せたな。ちゃんと飯食ってるか?雰囲気も…変わったな」。

「ゆうちゃんは変わらないね。あっ眼鏡が違うか」
少し微笑んでくれた。

「千春この後時間ないか?お前と話したいことがある」

「私は…何も話すること無いよ」

「千春になくても、俺にはあるんだ。何時もの居酒屋で待ってるからさ、きっと
来いよ。俺もう後悔したくないんだ」

「いやだ。それに他のお客もいるじゃん。なに話すの…今更…」
少しの押し問答が続き、相変わらずの頑固さにイラついて

「とにかく!まってっから!ずっといるから!」半ばやけになり、俺はメットを
被るとそのままバイクにまたがり、

「きっとだぞ!!!」
ヘルメット越しに叫ぶ。そのまま居酒屋に向かおう。まだ何か言いたげな、
千春を無視して走り出した。バイクのサイドミラーを見ると、千春はポツンと
立ち尽くしていた。

居酒屋に着くとのぼるに事情を話し、千春が来たら三畳程の奥座敷に移ら
せてくれって頼み込んだ。「のぼるはしゃあねぇなぁ。一つ貸しな」、でも快く
笑って許してくれた。それから俺はカウンター席に座り、酒は飲まず千春を
待った。

…しかし、というか、やはり千春は来ない。夜も11時を廻った頃だろうか。
店は12時迄。客も俺を入れて3人程になった。のぼるは気を使ってくれて、
「ゆうじ又今日も二人で飲むか?」、いい肴あるんだ。そんなやりとりをして
俺も諦めかけた頃。カラカラって店の引戸が開いて千春が現れた。

「ごめんね。おそくなっちゃった」
千春は俺の左横に座ると、

「のぼる何でもいいから、お酒とおつまみ作って」。
おぅ!それから千春の料理が揃うまで、お互い何となく気まずくって無言の
まま。その内最後のお客も帰り、店には俺と千春だけになった。のぼるは暖簾を
下げて、明日の仕込があるからと店の奥に入ってしまい、いよいよ2人だけに
なってしまう…。

店内は有線音楽が流れるだけ。とても息苦しい。千春はずっと前を見て、何も
喋らない。もう俺から話しかけないとって思った時、

……「ゆうちゃんさぁ、俊夫とここで喧嘩した時、俊夫から色々聞いたんでしょう?
あいつ、酔った勢いでさぁ、そんなエッチな話ししなくてもいいじゃんねぇw
他に友達もいたのに、私恥ずかしいじゃん。暫くここにこれなかったよ、今日だっ
て本当久しぶりだよ」

「まぁほんとの事だから、仕方ないけれどねww、ばかだなぁあいつ。そんで今
ゆうちゃんの時以上にあたしの事ほったらかしなんだよ?バカにしてると
思わない?wねぇww」

………俺は、頭をハンマーで殴られたようなショックを受け、言葉が出なかった。
こわばった顔が、きっと出ていたと思う。

「あれ?傷つけた?ごめんごめんwwwでもさ、あいつそっち方面強いんだぁ。
こっちの身体が持たないよwwイヤだって言っても無理に下着降ろしてさ、
そんでこないだも……

「やめろ!!!俺はそんな事を聞きにここに来たんじゃない。千春、お前
絵里の事知ってるだろう?絵里に何をした?何で絵里とあった!どうやって
連絡取れたんだ!!言ってみろ!!言い方しだいじゃ許さないぞ!!」

「何熱くなってんの?バカw?ちょっと遊んだけじゃない。そうだ、なんで
絵里ちゃんと連絡取れたか教えてあげようか?前にね遠出したとき国道の
パーキングエリアで、ゆうちゃんたちを見かけたんだよ。バイクいっぱい
だったね。あの娘がずっとゆうちゃんの傍にいたから、直ぐ彼女って分かったよ」

「そんでさ、止ってるバイクに買った先のバイク屋のステッカー貼ってあるじゃん。
電話番号も載ってたからね。電話帳調べれたら直ぐ分かったよ。「俊夫いないし
暇だったから、そのバイク屋にいってみたの。彼女が丁度いたのよww」

「ゆうじがいつもお世話になっていますってww、そしたらあの娘、びっくりしてさw
奥さんですかってw、バイク屋の親父も他の客もキョトンとしてたよww
それからね、二人で一度会わないって?話してさ、後日会ったの」

「かしこまっちゃって睨むみたいにね。そんな態度に腹が立ってね。ゆうじの夜の
お世話ちゃんとしてる?あの人ねお口でして貰うの好きだから、ちゃんと
テクニック磨いてね。あれ、あなた胸無いねぇ。ゆうじは胸のある子が…」

パァン!!

自分でもビックリしたが、気が付くと手が出ていた。腹が立ったのは間違い
なかった。千春は叩かれた頬を押さえながら、睨みつけると

「反対側もあるよ!叩いてみなさいよ!何?叩けないの?本当意気地なし
だねぇwwあんたがそんなだから家出たんだよ。俊夫の方がよっぽど
男らしいわwえぇ!どうなのよ!!何とか言ってみなさいよ!お前…最悪!
……死んだら…いいのに。。。」

最後は涙声になって千春は、バックをひったくると出て行った。

「千春!!」
声は掛けたものの、身体は硬直して追いかける気力もなかった…。千春は
あんな女だったか?頑固だったけれど少なくとも人を困らせたりしない。
むしろ困っている人が居たら、真っ先に手を差し伸べる優しい娘だったのに。
なんで?なんで??打ちのめされて言葉もなかった。

…「ゆうじ、まぁこれで踏ん切りがついたんじゃないか?お前なりの答え
出たろ。わりいな。奥にいても全部聞こえちゃったよ」

「そうだな…わるかったなのぼる…」
翌日、余り眠れずそのままの朝、俺は母と祖母に帰る事を告げて街を出た。
そう絵里が待っている。とにかく早く絵里に会いたかった。


道中、道が込んでいる所もあったけれど、確か昼過ぎ3,4時位には自宅に
戻っていたと思う。部屋に入って荷物を降ろし絵里に電話してみる。
留守電だったので「帰ってきたよ」とだけメッセージを残し、それから寝不足と
疲れで少し横になった。目をつぶると昨日の千春の叫びと俺をにらみつける
鋭い目が頭に浮かぶ。

そしてそれが頭でループする。…でも疲れたよ…。

気が付くと日も暮れて部屋が真っ暗だった。いつの間にか寝ていたみたい。
明かりをつけて時計を見たら夜10時過ぎ。絵里はどうしてんだろう。また電話
してみる。コールはするものの出ない。暫くするとメッセージになったので、
そのまま受話器を置いた。絵里、何処行ってんだろうな?家に行ってみようか

ん〜明日は仕事だし、まだ疲れも残ってたけれど…。一目でいい。絵里の顔が
見たい。そう思うと、合いたい気持ちに居ても立ってもいられず、俺は絵里の
マンションに向かった。

マンションに着いて絵里の部屋を見上げても、明かりはついてなかった。俺は
絵里を部屋で待つつもりで階段を上がったんだけど、鍵穴に合い鍵を入れ
ようと…。ふと外から又覗いてみようか?何てことを考える。我ながら変態
だな…。しかし絵里の本音を又見る事が出来るかもしれない…。結局誘惑には
勝てず、絵里に見つからない様バイクも全然違うところに止めなおして、

又屋上に通じる階段の扉を開けた。さっと忍び込んで扉を閉める。俺何して
んだろ…。そうは思いつつも、そのまま座り込んで換気口前に待機。絵里の
帰りを待ち続けた…。

…ガチャガチャカチャン…。鍵を開ける音で目が覚めた。またいつの間にか眠っ
ていたみたいだ。

腕時計を見ると12時を廻っている。そっと息を殺して換気口の奥を覗き込んだ。
部屋の明かりが着いたら、余所行きのワンピースを着た絵里の姿が目に入って
きた。そして、

「…ん…いなかったか…」
絵里の独り言。誰が?俺?電話の留守電ランプが点滅しているも見える。
再生ボタンを押す。…「帰ってきたよ」…俺の声。 

「帰ってきたw」又絵里の独り言。
そして、ふぅ。。。大きな溜息をついて、

「…ごめん…ね」
棚の小さな写真盾を見つめながら、ぼそっとつぶやいた。それは俺と絵里の
ツーショット。なんだろう…すこし…でも嫌な何かを感じたけれど。それから前と
一緒で部屋着に着替えて化粧を落として、風呂に入り髪を乾かし、直ぐに眠って
しまった。

ホンとはちょっと一人でやらしい事するんじゃないかって、期待もあったりもした
んだけどw、結局なぁんにも無かった。覗きをしている俺も、いい加減馬鹿
すぎるって。正直飽きても来てw 眠さもあるし、何しに絵里ん家来たんだ俺。
やや自己嫌悪に陥りながら、そそくさと俺も自宅に帰った。

次の日、普通に仕事。会社で絵里と目が合うと微笑んでくれたんだ。優しい
笑顔。廊下ですれ違いに「今日ゆうじの家に行ってるね?」、「ん」、
小さくうなずく。久しく感じていなかった安心感だなぁ。絵里が待っててくれる!
俺は絵里待つ家に早く帰れるよう、いつも以上に仕事に取り組んだ。そして
帰ったら直ぐに絵里を抱きたい。

素直な欲求、性欲、本能?ただ、ただ絵里の身体を感じたくって仕方ないんだ
今夜…絶対。

etc……「あっあぁ、うぅん。ゆうじぃ…」
相変わらず絵里の中は熱い。仰向けの俺視線を腹の方に持って行くと、
俺のが絵里のそこに刺さっているのが見えた。下から腰を突き上げてみる。

「あぅっ、うん。やだぁ。」
何度もなんども突き上げた。

「ふぅ、うっ、うっ、うぅ…ん。」
にっちゃ、にっちゃ、にっちゃ、俺の胸に手をついて絵里が揺れる。粘着質の音と
生めかしく動く絵里の腰、身体。

「ゆうじ…気持ちいぃよぉ」
見上げると絵里が上からかぶさってきて、両手で俺の頬をなでる様に抱え込ん
できて、少しだけ口をあけてキスをした、そのままねっとり舌を絡めあって、俺の
口を絵里の口びるが不意に塞ぐ。生暖かい唾液が流れ込んできた。とろり…。

「うぅ、むふぅ。うぅうん。ゆうじ美味しい?」
妖しくて蕩けきった絵里が俺を見つめてた。俺は答える代わりに絵里を
抱きしめて引き寄せると、絵里の身体全体を横に寝転がす。

「ぁん」
上下逆転。

「絵里…自分で太もも持って足開いて?」

「いやぁ…」  「ほら?な?」
顔を横に向けて目をつぶりながら、ゆっくり足を開く絵里。そこはいやらしく開き
きって、小さな明かりだけの暗い部屋の中ででも、テラテラと光って見えた。

「絵里、お尻の下まで垂れてるよ?」

「やだ…恥ずかしいょ」  「それにヒクヒク動いてる」

「…もぅ、動いてないもん…」
俺は自分の腰を進めながら、更に絵里の足を開いた。

「あ…いや」
ちゅく。ちゅ。

「…あぁん…」
絵里のに包まれる。絵里の脇の下に両手をついて、更に腰を深く入れて、
絵里の感じる顔を見ながら腰を振った。

ちゃ、ちゃ、ちゅ、ちゃ、ちゃ、粘つく音…力を入れていく。

「っあっあっあっぁあ、あぁ」
絵里の額に汗が浮かんで、前髪がへばりついてるのが見えた。自分で
太ももを持ち続けるのが辛くなってきたみたいだった。時間をかけて、
俺は更に絵里に打ちつける。

「くっぃうぅ!」
絵里の息が次第に乱れ

「あっあっあぁああ、くっ、はぁはぁ…ゆうじぃ、ゆうじぃ…いっっぃ…
く…いぅ、あ」
このままこいつを壊そうか?

抱え込むようにして腰を振り、深く、絵里に力の限り打ち込んだ。

「あっっ!やだやだやだっ!いく!いっちゃう!いっちゃうよぉ!!!」
絵里!絵里!!心の中で叫ぶ!

「あぅっっくっふっふぅぅ」。
絵里はのけぞりながら白い腹をビクつかせ、俺のをぐっと締め付けると、
ガクガク全身を震わせた。  つっ!うっ!!堪えきれず、俺も絵里の
奥にしぼり出す。後でゴムを見たら凄い量の精子を出していた。

絵里はまだ呼吸が落ち着かない。時々びくっびくって震えてる。苦しそうに
口を半開きで 

「はぁはぁはぁ、ゆうじ…。今日激しすぎるよ…はぁぁはぁはぁ」
うつろな顔。涙目になりながら、絵里は俺の胸に顔をつけて、小さく
つぶやいた。

それから、汗を流しに二人でシャワーを浴び、絵里と身体を洗いっこ。
触ってるうちに大きくなった俺の。「舐めて?」…「もう」。奉仕。我慢
できなくなってゴムもつけずにバックから絵里に入れた。ひとしきり
獣じみた声をあげると、又絵里が逝く。今度こそちゃんとお風呂に
入ろうって2人苦笑いしながら、やっと湯舟に浸かった。

「だけど絵里、最初の頃に比べたら凄く積極的になったなぁw」

「ゆうじとだからだよ♪。ゆうじのが入ってくると、ゆうじでいっぱいに
なるの。それにあたし、勉強家だからw」

「そかww」

その後布団の中で何でもない事を、あぁだこうだと喋っていたんだけど、
ふと言葉が途切れた時、

「ねぇ、ゆうじ?お話ししても…良い?」

……「良いよ」
改まっての真剣な顔。

「ゆうじは田舎に帰って、その…奥さんと会ったんだよね?きっと奥さん
から聞いて、わかってると思うけど、奥さんと会ったこと。。。ずっと黙ってて
ごめん。何度もさ、言おうと思ったんだけど、言えばゆうじは色々考えて
離れて行く気がして…」

「いいよ。もう全部済んだんだ」……。
俺はそれから、久しぶりに仲間と会い飲み明かしたこと。千春と会いその
時の千春の様子。俊夫が居なかった事。全部正直に話した。

「……俊夫には改めて会いに行くよ、それから…」

「…ちがうよ」…。 

「え?」  「全然違う…」
布団から上半身を起こすと、絵里はうつむきながら、

「それって奥さんの気持ち…何も聞けて…ない」

「いや、だから…」

「ゆうじは奥さんが言った事に何にも思わなかったの?」 
なんか、言う事を聞かない子供に言い聞かすような、ものの言い方に
イラっときてしまう。

「だから、だからショックだったさ!!」

「ゆうじ…。何でわかんないの?」 

「あ?何がだよ!!!」

…沈黙……やがて絵里は淡々と

「バイクのステッカーで電話番号を控えたって、ゆうじの様に他でバイクを
買った人もいるんだよ?あれだけの台数何種類の電話番号控えたの?
それにバイクで何時間も私達の街まで掛かるんだよ?知らない土地に
一人で女性が、暇だからって直ぐこれるの?」

「ましてバイクショップ探してだよ?それも私に悪態つく為だけに?
普通に考えてよ…。どんな方法使ったかわからないけど、ゆうじに
会いたかった。謝りたかった。でも勇気が無くって、私との様子も知りた
かった。違う?」

「…あ」

「それとも、貴方の奥さんは昔からそんな性悪の人だったの!」涙を浮かべ
俺を睨む、でも哀しそうな顔。

「どうして…どうして奥さんの事信じて上げれなかったの?話さないと分から
ないよ…。他の男性の所に行ったのだって、何か他に理由があったかもしれ
ないでしょ…」

「なにも…けじめ…。ついてないじゃない」。。。。

絵里に言われてはじめて気がついた。俺、何しに行ったんだ?
さっきまでの甘い雰囲気はもう微塵も無く…俺は言葉をなくす。

「絵里…」  「ごめん、触らないで…」

絵里は帰りはしなかったけれど、背中を向けて、やがてその小さな肩を
震わせだした。声は殺してたけれど…。。。   最悪だ。俺…ほんとう最悪。
同じ布団の中で2人。今は何を言っても嘘臭く、絵里の気持ちがずっと遠くに
行った気がして、部屋の置時計の音だけがコチコチ聞こえてた。


迎夢 ( 2014/06/01(日) 05:15 )