堕落
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仲村は先ほどのように客の受け答えをした。
風俗の仕事は本当に誰でも出来る仕事だった。その日の夜ともなると仲村は一人前にマメ屋の従業員のように一人で仕事をこなしていた。
非合法なマメ屋の従業員などは40才を過ぎて髪の毛をチンドン屋の様に茶髪に染めているような男が出来るくらいだ。
仲村は一様は三流大学卒業だ。
仲村にとってはマメ屋の仕事など本当に簡単な仕事だった。
それでもしばらくぶりの仕事なのでとても楽しい。
あの時、龍道組の人間にさらわれて居なかったらきっと未だにアユミとシャブを極めてアブノーマル性行為を繰り返していただろう。
そして、何日も寝ないで食事も満足に取らずに篭って脳みそが疲労でパンクして被害妄想や幻覚、幻聴で奇怪な行動を取り警察に捕まっていたかも知れない。
結果的にはあの時、ヤクザにさらわれて良かったのかもしれない。
しかしアユミを失ったことは残念だ。そして従業員の女の子もポン中かも知れないと思うと蟲が騒ぐ。

そうこうしてるとタイムウォッチのアラームが鳴った。
福永は抜道の妻の携帯電話から女の子に電話をかけた。
「店です。10分前です」
そう言って福永は電話を切った。
電話を切ると玄関のチャイムが鳴り新しいお客が来た。
「いらしゃいませ」
と言って福永は客の待合室まで仲村と行くと利用時間と指名の有無を聞いた。
客は写真指名を選択したので今出勤してる3人の女の子の写真を持ってきた。
そして先ほど10分前の電話した女の子をこの子がお勧めで今すぐ利用可能だと客に勧めた。
客は福永の口車に乗せられまもなく帰ってくる女の子を指名した。
利用時間と指名料を貰うとただい準備しますので10分〜15分ほどお待ちくださいと言ってカウンターに戻った。
福永はやはりマメ屋の経験が長いのだろうそれなりに客を扱うのは上手かった。
15分もすると女の子が店に戻って来た。
福永は女の子を店に入れず店の前に立たせて、そのまま待機室の客を呼びに行った。
先ほど客に言った女の子は準備など全くのデタラメで、もうすぐ帰ってくる女の子を準備するから待ってくれと言ってるだけだった。
これも風俗業界ならどこでもやる初歩的なテクニックの1つだ。
仲村と福永は客を送り出すとそれからしばらく客は来なかった。
開店2時間弱で4人の客が来た。もしこれを給料とすれば4000円だ。
仲村はこんな楽な仕事でこんなにも給料が貰えるなど何といい商売なんだと思った。

その後、客はボチボチ来て夕方まで10人位は客が来た。新しい風俗嬢も来て挨拶し午前中から働いている風俗嬢もチラホラ帰りだした。
食事は出前で風俗の仕事は不思議なもので時間帯によってほとんど客が来ない時間がある。その時に出前を取った。
帰る時は今日の出勤を必ず確認するのが風俗業界の決まりのようだ。抜道の妻でもそれはしていた。
単純で馬鹿でも出来る仕事が風俗店のボーイだ。
さすがに風俗の仕事なので夜のほうが客も風俗嬢も多い。福永は夜勤で仲村が昼勤の意味がわかる。夜勤のほうが給料が遥かに良いからだ。

同じ事の繰り返しで1日は終わった。こんな仕事は誰でも出来ると仲村は思った。

深夜3時に客の受付を終了。終了と言ってもさすがに深夜12時を過ぎると風俗嬢も2人しかおらず、それから売り上げを計算する。計算と言っても簡単な計算でサラリーマンの長い仲村にとっては直ぐに出来る事だ。
風俗嬢の質もそれなりの本番屋だ。客が来ない訳が無い。今日の売り上げは50万5000円だった。女の子の取り分が幾らかは分からないが折半なら25万円が利益、そこから仲村と福永の給料を引いても20万以上は余裕である。このテナント料を引いてもかなり開門は儲けているようだ。
風俗とは何とボロ儲けの商売なんだ。

深夜3時を過ぎると開門の舎弟の成田が店に来た。
成田は40前後で短髪の痩せ型ジャージを着ており見た事が無いので仲村を監禁していた時には居なかったようだ。
「お疲れ様です」
福永は成田に頭を下げて袋に入った売り上げと明細を成田に渡した。
そして仲村の方を見ると「この人が仲村さん?」と話しかけてきた。
仲村も挨拶した。
「仲村隆志です。これから働きますのでよろしくお願いします」
「ウチの兄貴から聞いてますよ。いろいろ大変だったみたいですね。開門組の本部長やってる成田です」
成田は開門とは全く違い見た目とは違いとても紳士だった。
「これから一生懸命働きますのでよろしくお願いします」
「頑張ってくださいね」

ここ何日かの出会いで仲村のヤクザに対するイメージは全く変わってしまった。

迎夢 ( 2013/08/11(日) 03:49 )