堕落
36
仲村が目を覚ますと見張り当番の新しい2人組が弁当を持ってきてくれた。
高山は仲村に「またな」といって出て行った。
別に高山以外のヤクザなら会話することなど無い。弁当を出されてはそれを食べたまにトイレに連れて行ってもい毛布に包まり眠るだけだ。



それから何もする事が無く3日が過ぎた。
約4日間、風呂にも入らず歯も磨いていない。仲村は髪の毛が頭の油でギトギトで身体も加齢臭がして臭いし痒い。ヒゲも伸び出してきた。一見してホームレスのように成っている。
いい加減にいつまで監禁生活をさせるつもりなんだ。仲村もこんな生活は1日も早く終わらせたかった。
話す相手もいない。これなら開門の喧嘩自慢を聞いてた方がまだマシだと毛布に包まっていると見張りのヤクザの携帯電話が鳴る。
「おはようございます。鈴木です・・・・はい、わかりました」
そう言うと見張りのヤクザは電話を切り、仲村に言った。
「今から若頭や他の人たち来るから準備しとけよ。お前をどうするのか言いに来るみたいだ」
3日前に仲村は高山から開放される事を聞いていた。やっと今日で監禁生活も開放されるのだ。しかし心配してるフリをしなくてはいけない。
「私はどうなるのですか?」
仲村はそう言って心配してるフリをした。

30分もするとドアが開き若いヤクザは背筋を伸ばし開門に挨拶した。
「若頭おはようございます」
ヤクザは大声で開門に挨拶した。
「おう、おはよう」
そう言うと開門を先頭に高山含め5人ほどのヤクザが入ってきた。監禁初日に来た組長は居なかった。
開門は今日はシャブをやってないようだ。雰囲気が暴力的だった。
「今日はお前を殺しに来た」
「・・・」
仲村は驚いた。てっきり今日、開放されると思ったら開門は殺すと脅すのである。高山が言った事は嘘だったのだろうか?
「勘弁してください。もう悪い事はしませんので警察にも絶対に行きませんので」
仲村がそう言うと開門達はわざとらしく何かを話している。
そして仲村に言った。
「本来ならば今ここで殺すのだが今回は親分から解放してやれとの指示があったのでこれからお前を自宅に送って行ってやる」
よしっと仲村は心で言ってガッツポーズをした。
「何だよ。そのポーズ」
高山は仲村にそう言ったら開門は大声で怒鳴った。
「ただし条件がある。1人でもウチの組員がこの件で捕まったら仲村お前の家族を全員殺すからな。これだけは言っておくからな」
そう言って開門はヤクザに仲村の免許書の本籍地や住所を紙に書くように指示した。
「ウチ組員が1人でもこの件で捕まったら外人使ってでもお前の親まで殺すからな」
開門は2回、同じ事を言って念を押した。
元から仲村は警察に行こうとは思ってなかった。と言うかシャブを買いに行ってさらわれた等とは警察に言えないだろう。
「絶対に警察には行きません。それに私も覚せい剤が絡んでいるので行ける訳ありません」
仲村がそう言うと開門は大声で言った。
「わかった!仲村お前を信用する。今から高山がお前を送るからな。言ったらどうなるかわかってるな」
開門や他のヤクザ達はそう言うと監禁部屋を出て行った。時間にして5分もかからなかっただろう。
高山は皆がいなくなると仲村の手錠を外して袋に入った仲村の荷物を渡して外に出た。
4日ぶりの外の空気だ。外は深夜だったが仲村は大きく深呼吸して高山の車に乗り込んだ。
「オッサン良かったな」
「開門さんが殺すと言った時は正直ビックリしたよ。やっと家に帰れるんだ」
「ちゃんと風呂に入れよ。それと警察には絶対に行くなよ」
「わかってるよ。絶対に警察には行かないしこれを機会にシャブは絶対にやめる」
「わかった。じゃあ行くぞ」
高山はそう言うと車は走り出した。


車は1時間もすると仲村をさらった場所まで着いた。
「じゃあなオッサン。これ俺の番号だからなんか有ったら電話よこせよ。仕事ないなら紹介もしてやるしよ。これもなんかの縁だからよ」
高山はそう言うと仲村に携帯番号を書いた紙を渡した。仲村の携帯電話は電源が無い為に止っていた。高山の番号を貰い仲村は車を降りた。
「オッサンもうシャブやるなよ。なんか有ったら電話よこせよ。じゃあな」
「もう絶対にシャブはやらないよ」
そう言って仲村は高山と別れて自宅まで歩いて帰った。
帰っている途中、アユミはどうしているか心配だった。
これを機会にシャブ辞めて、仕事をしてアユミと真面目に交際しよう等と仲村は真剣に考えながら歩いて10分もしない自宅に早足で向かった。


自宅のワンルームのマンションの鍵を開けて部屋に入ると部屋は真っ暗でアユミはいなかった。
どこに行ったんだ?仲村は部屋の電気をつけ携帯電話を充電してアユミの携帯に電話をした。
「こちらはNTTドコモです。お客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになってお掛け直しください」
アユミの携帯番号は解約されていた。
仲村はレナならアユミと一緒にいるかも知れないと思い。レナの携帯電話に電話をかけたがレナの番号も解約されていた。
おそらくはシャブを買いに行ってそのまま音信普通に成った仲村をアユミは警察に捕まったと思い込んでレナの所に相談しに行って2人で携帯電話を解約したのだろう。
別に解約したところで本当に警察が捕まえる気になれば一緒だがアユミとレナは仲村がヤクザから監禁されていた4日間で仲村の前から姿を消して行ってしまった。
仲村はアユミの本名すら知らない。携帯電話の番号以外に探しようが無かった。
なんだか1人ぼっちになった仲村は物凄く虚しかった。アユミに会いたい。仲村はアユミに惚れていたのだ。しかし会えない。
虚しさだけが仲村を包む。


迎夢 ( 2013/08/11(日) 03:44 )