堕落
20
もちろん運悪くシャブを持っていれば捕まったであろう、不幸中の幸い手元に無かっただけである。改めて仲村は思い知らされた。
こんな状況でシャブなどやりたくはない。仲村はひとまず自宅に帰る事にした。

その日を境に捕まる恐怖心が植えつけられた。もしあの時にシャブを持っていればおそらく警察の口車に乗せられて捕まっていただろう。
警察から職質を受けた日、仲村は怖くなり自宅に帰り結局は外人からシャブを買わなかった。そして連絡先の書いた紙切れを捨てた。もうこれを機会に覚せい剤はやめるんだ。
そう決心する。
そして次の日も何とかシャブをやるのは我慢した。


シャブを抜きもうすぐ一週間、今なら尿検査しても小便からシャブが出るかでないか微妙な日数だ。体内からシャブの反応が出なければ警察に逮捕されても覚醒剤
もの
を持っていなければ、いくら自分がやっていたとしても無罪である。それこそ証人が居ても自分がやっていると言っても身体から覚せい剤の反応が出なければおそらくは無罪だ。
体内から覚せい剤が抜けたと言う事はそれから覚せい剤をやりたいと思う気持ちは切れ目のダルさ等の肉体的依存ではなく快感の欲求それは明らかに覚せい剤の精神に対する依存である。
ハッキリ言ってしまうと精神依存は人によるだろうが少なくても一生続くだろう。初めの頃は食塩や砂糖を見ればドキッとし鼓動が早くなるし、シャブの話をされると口の中から唾が溜まる。シャブの話をされると男なら無性にムラムラするし女なら濡れるだろう。言い出せばキリがないが数ヶ月も抜かずに体内に覚せい剤を入れていた訳で、どんな人間でもこの時期は手元に覚せい剤が有れば我慢できずにやってしまうだろう。
もちろんコレはどんなに意思が強い人でも多少は依存してしまう。
一番簡単なやめ方は覚せい剤を持ってるような人間の連絡先を絶ってしまうことだろう。捕まればやりたくても出来ないのだ。シャブがなければ死ぬわけではない。無ければやりたくてもやれないのだ。シャブがなくなると発狂や幻覚が見えるといった事はまずない、アレは当局が面白可笑しく作っているだけだ。幻覚は何日も寝ないでやり続けなければ見えない。
それが出来なければ、覚せい剤じゃないほかの麻薬で誤魔化すのも一つだろう。シャブをしたくなったら酒を飲み睡眠薬を飲み寝る。大麻で誤魔化す。色々あるだろうがそれも一つだ。
それこそ当たり前だが大麻や睡眠薬、酒にも依存性はあるし。どんな薬にも多少なりとも依存性はある。


仲村も覚せい剤依存がでている。やりたくてしょうがないのだ。後一回、コレで最後にするから最後の一回など心で叫ぶ。
その反面、もうこれを機会にやめるんだという自分。
しかし仲村の薬物断絶の決意もレナからの電話で吹っ飛ぶ
ピッピッピッピー
出なければいいのだがもしかしたらシャブが入ったのかと思い鼓動が早くなる。
「はい」
「仲村さん、どっかから手に入れてよ。お願いだからさ」
覚せい剤が入ったのではないのか、テンションが下がる。レナもシャブをやりたくてしょうがないのだ。
「俺は今シャブをやめようと思ってるんだ。
もう連絡しないでくれ」
「何言ってんのよ。毎日やらなきゃいいんだよ。たまポンは別にいいんだよ。月に何度かホテルでこもるのは別に悪い事じゃないんだよ。少し金のかかる趣味だと思えばいいんだよ」
レナの言う覚せい剤の正当性も分からない訳ではない。それ以前に仲村はシャブをやる正当な理由が欲しかっただけなのかも知れない。仲村はテンションが上がる。
「そうだよな。中毒にならない範囲でたまにやるならりっぱな趣味だよな」
「そうだよ。覚せい剤と上手く付き合えば捕まる事だってないし別に誰にも迷惑かかんないんだよ」
「そうだよな。すぐ折り返すから、待ってくれ。もしかしたら手に入るかもしれないから」
仲村はそう言うとレナとの電話を切った。
仲村はきっとシャブをやる理由が欲しかっただけなのだ。常ポン(毎日のように覚せい剤をやっていること)になら無ければ良いのだ。
公園に行けばあの若者が居るかもしれない。仲村は目をギラギラさせ自宅を出た。


仲村は公園に行ったが若者は見当たらない。
前なら大体、日が暮れれば街頭に立て密売していたのにやはり居なかった。
おそらくは捕まったのだろう。
しかし一旦、薬をやろうと思ったらどうにかしてやりたい。あの外人から貰った番号の書いた紙切れは捨ててしまった。
何で危険をして手に入れた連絡先を捨ててしまったのだ。後悔しても仕方がないがその時、仲村は覚せい剤をやめようと思ったのだ。
どうすればいいのだ?
考えたがまた大久保に行くしかない。・・・いや待てよ、携帯電話の発信記録に外人売人番号が残っているはずだ。
そう思い携帯の発信記録を見るとやはり残っていた。鼓動が早くなる。
さっそくだ。仲村は公園で売人に電話をかけた。
「ハイ、モシモシ」
やはりこの番号だ。
「練馬区までなんですが?」
「アナタ初メテ?」
「初めてです。」
「・・練馬区OK、何欲シイ?」
「S05、ポンプ一本付けて2万」
「OK練馬区ノドコ?」
「どこだったらわかる?」
「駅ノ近クナラダイジョブ」
「30分後、駅に行く」
「OKツイタラ電話クダサイ」
仲村はそう言うと電話を切り。練馬駅まで歩き出した。



迎夢 ( 2013/07/31(水) 10:25 )