堕落
19
問題とは何だ?もしかしたら覚醒剤中毒リストにでも載ってたのか?
仲村には尿検査すれば覚醒剤反応が出るという後ろめたさがある。このまま警察に逆らえば公務執行妨害ということで逮捕までされる可能性もある。今は幸いシャブを持っていないのだ。ここはおとなしく言う事を聞こうと思いパトカーに乗り込んだ。

後ろの席に警察に囲まれるような形でパトカーに乗った。とてももう逃げられる体制ではない。仲村は捕まるといった不安から落ち込んでいた。
「仲村さん、免許の照明は特に問題なかったんですが財布の中だけ見せてください」
さっきは問題があると言っておきながら、本当は車に乗せる作戦なのだ。仲村はまんまと警察に騙されたのである。
「問題ないなら、ここから出してくれよ。急いでるんだ」
慌てる仲村に警察はすかさずいった。
「別に悪い事してないなら、財布やポケットの中見せてください。警察
われわれ
も仕事なんです」
「ふざけるな。免許見せるって言っただけだろう」
「仲村さん悪い事してないんだったら見せてくださいよ。あんまり警察
われわれ
の言う事聞いてくれないなら警察署に行きますよ」
そもそも新宿四谷署など歌舞伎町を含んだ新宿の繁華街を所轄するプロだ。職質だけで1日10人以上逮捕する猛者だ。仲村は間違いなく怪しいとにらんでいる。警察もかなり強引だ。
警察署に行き小便でも取られればアウトである。今はヤバイ物は持ってない。しいって言えばイラン人の電話番号くらいだ。それくらいならと思い仲村は警察に財布を見せた。
警察は仲村のポケットにも手を入れ調べた。もちろん捕まるようなものなど持っていない。財布をくまなく調べると紙切れに書いた売人の電話番号を聞いてきた。
「この番号はなんなんだ?」
仲村は小心者の癖に頭の回転は速い、嘘は得意だ。
「恥ずかしい話なんですが会社をクビに成ってしまい。面接に行く途中だったんです。この年なら再就職も厳しくて・・・だから大久保で風俗店の面接だったんです。どうしてもこんな年になると再就職は難しくて。知り合いに見つかったら嫌だったのでサングラスをして帽子をかぶったり誤解させてしまったようで今からその風俗店に面接に行くんです。その店の番号です。急いでるんでいいですか?」
まさに即席の嘘だが、警察も納得するすばらしい嘘だった。
「いやあ、そうでしたかこちらこそお手数かけてすみませんでした」
警察もすっかり騙され、仲村に財布を返すとパトカーから降りた。
警察が本当に信じているかは別として、職務質問で財布やポケットの中を半強制的に見るのは法律的に言えばダメである。まして小便を取るなど覚醒剤が出たら現行犯で逮捕されその後に小便は取られるにしろ、現状では取る事はない。
仲村は警察に会釈すると歩き出した。幸い捕まるようなものは持っていなかったが新宿を嫌がったイラン人の気持ちが分かった。


迎夢 ( 2013/07/31(水) 10:24 )