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あれから日が経ち、美奈は相変わらず明るいのだが、あの日からちょっと落ち着いた雰囲気に変わった。
際どい格好や状況で誘ってきたりするのを恥ずかしがるようになったのだ。その顔に思わずこちらも恥ずかしくなり、わざとこちらが「これ着ないの?」とワイシャツやパーカーを見せ、あえて恥ずかしい格好をさせようと勧めるのが楽しくなった。
より一緒にいるのが楽しくなったのはいいのだが、残念ながらあれからセックスはしていない。
恵さんにこれを話すと、恵さんは俺と一緒に美奈をからかうようになった。
私の下着貸そうか?と言って、明らかに危ない面積の黒い下着を見せてきた時は愉快だった。
だが、美奈との仲が戻ってめでたし、とはいかなかった。美奈はあれから少し距離を置くようになってしまったのだ。
本人曰く、「思いだしちゃって恥ずかしいから近くにいづらい」だそう。恵さんは笑っていたが、俺はちょっと寂しい。
ところがそんな寂しさも束の間。
とある休みの日の夕方、恵さんからLINEメッセージがきたのだが、私の部屋に来てほしいという。また晩飯でもご馳走してもらえるのか、愚痴でも聞くのか、何も考えずに携帯電話と鍵だけを持って恵さんの部屋へ入った。
「ごめんね、急に呼び出して」
「いえ、別に暇でしたから何も迷惑じゃないですよ」
「急に呼び出したのはね、その・・・とりあえず座って?」
「・・・?」
しどろもどろする恵さんだが、とりあえずこちらも言われた通りに座った。するとその瞬間。
「!?」
恵さんは俺を抱き締めてキスをした。突然のことに訳が分からない俺は体が動かなかった。
「ふぅ、びっくりした?」
「そりゃそうでしょ・・・体がビクッてなって固まりましたよ」
「かわいい・・・ねぇ小山君、最近寂しいでしょ?」
「へっ・・・?」
「・・・私ね、そろそろ限界がきちゃったの。小山君が欲しくなっちゃって」
「欲しい、え?え?」
「バスタオル一枚の時の私と密着したあの日から、小山君の事がずっと忘れられなくて・・・それで今日はね、小山君、君の寂しさを私が発散させてあげようと思ってね」
喋りながら服を脱ぐ恵さんに、こちらは目を合わせられず、恵さんと逆の方向を向いたままで制した。
「何を言ってるんですか!恵さん、俺には美奈がいるんで!」
「・・・小山君、カリギュラって知ってる?」
「か、カリギュラ?」
「かなり昔やってた映画の名前なんだけどね、その映画の注目点は宣伝文句なの。宣伝文句で“あまりに恐ろしいので観ちゃいけません”なんて普通書く?」
「・・・か、書かないでしょ、わっ、恵さん!胸が!」
「でもね、そんなにまで観るなって言われたら、人は観たくなっちゃうものなの。この心理の事を、映画の名前からとって“カリギュラ効果”って、人は言うようになった。まさに今の状況でしょ?」
「これは、いくらなんでも!」
「彼女がいるのは分かってる。でも内緒で、隣の部屋の淫乱お姉さんとエッチしちゃう。彼女がいるからダメだけど、そういう壁を突き破ったらどうなるのか。楽しみ・・・」
恵さんはあの時に美奈に見せた、黒い危ない面積の下着だった。付けたらもっと危ないことになっていたが、今の俺はそのさらに危ない状況にパニクっていた。
「ほら、落ち着いて。服を脱いで、お風呂入ろう・・・?」