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「おはよう」
「おはようございます、課長」
出張から戻った課長は坂本へ声をかけるが、その顔が明らかに普通の色じゃない事に気付くと、坂本を呼び、その場から離れた。
「どうした?真っ青だぞ」
「・・・あぁ、はい」
「何かあったのか、それとも体調不良なのか?」
「・・・あ、ぁ、課長・・・その、その・・・」
「どうしたんだよ・・・」
若干、苛立ちを募らせながらも、課長は坂本へ改めて問いかけた。
「課長、これ・・・」
「なんだそれは?DVDか」
「応接室、行きましょう・・・勿論、誰も呼ばずに・・・」
応接室に連れられ、中に入ると坂本は鍵をかけ、先ほど見せたDVDをノートパソコンにセットし、再生した。
「な・・・え、なぜ!?」
映っていたのは他人の空似ではない。間違いなく、課長の娘だった。
撮影者と娘が会話をしているようだが、始まってすぐ、娘は撮影者に言われるがまま笑顔で服を脱ぎ始めた。あっと言う間に下着姿になり、胸を寄せたり、お尻を突きだしたり、まるでグラビア撮影か何かのような事をし始めた。
「さ、坂本!これはどういう!」
「・・・」
生気が失われた坂本の顔。何も反応しないと判断した課長は映像の続きを観た。
娘は全身にローションを塗り、下着も自ら外すと、体をくねくねさせながら撮影者のパンツのファスナーを下げ、男性器をむき出しにした。
上目遣いをしながら、撮影者のモノをしゃぶる娘。
課長はあまりの衝撃に吐き気を催し、映像を止めた。
「坂本・・・これは、何なんだ」
「・・・一昨日、課長宛に届いたんですが、差出人が雄介だったんで・・・それで悪い予感がして、中身を見たらこの映像が・・・」
「田村が・・・じゃ、この撮影者は・・・田村なのか!!」
「それが・・・村田、で・・・」
「村田!?」
「それ以上は、知らない、です・・・」
怒りに奮え、課長は会社を飛び出すと、村田の元へ向かった。
娘へ連絡するも、電話番号は未登録扱いでつながらない。だが娘は分からなくても、村田の場所はわかる。
かつてヤクと女でつるんでいた仲だ。その居場所も知っている。タクシーに10分ほど乗って着いた先はとあるビル。
その地下に行くと、ドアを蹴破る勢いで開け、そこにいた村田の胸ぐらに掴みかかった。
「俺の娘はどこだ!!」
「ああ!?なんだ、よぉ!知るかよ!!」
「とぼけるなぁ!!俺の娘をヤクに陥れて!ヤったんだろうがぁぁ!!」
「知らねっつってんだろうが!」
「じゃあこれを観ろぉお!!」
ノートパソコンの映像を再生するが、村田は知らぬ存ぜぬを繰り返すばかり。痺れを切らした課長は村田を殴り付け、取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。
「俺の、俺の、大事な娘をどこにぃぃ!!!返せぇぇ!!!」
「知らねぇ、つってんだろっがあ!!なんだクソジジイ!!」
「ふざけんなぁぁぁああ!!!」
あまりの暴れように耐えられず、課長はガラスの灰皿を手に取ると、村田に向かって振り下ろした。
重い、鈍い音と感触が手に伝わると、課長はさらに2発、3発と振り下ろした。
「この!この!俺の娘を返せ!!外道が!!畜生がぁ!!」
「あ、あぁ・・・つぅ、くそが・・・いい加減にしろよテメェ!!」
「!?」
村田の手にはナイフが。課長の腹を思いきり刺すと、一気に抜いた。血がすごい勢いで流れ、課長は痛みと流血で意識を朦朧とさせ、同時に吐血も催した。
だが娘への執念から課長は灰皿を振り上げ、村田へ渾身の一発をお見舞いした。
「あ、あぁ、ぁ・・・」
村田の頭が割れ、一気に流血で二人の周りが血の海に。村田は意識を失い、課長はそれを確認すると村田の横に倒れ、意識を失った。
幸か不幸か、この場には二人以外に誰もいない。
この惨状が世に知られるのは、課長が倒れてからしばらくしての事だった。
それから20日後、坂本からの連絡を受けた俺は、そろそろ既読をつけてやろうと思いLINEに返事を送った。
雄介:坂本、頼むよ。ヤクの元凶も、俺の姉貴を売ったジジイも、その奥さんも、もういない。玲奈と岡田を守ってくれよ。俺は遺されたこの娘と旅でもしようかね。あ、姉貴はもういいや。もう檻から出すのも面倒くさいし。じゃあ元気でな。