Case.1
06
そもそも、姉貴がヤクに手を出したのは突然だった。

俺が14歳の頃の話だ。夏休みに家族で海水浴へ行っていたその夜、眠れない俺は玲奈と一緒に砂浜へ出たのだが、それから10分もしないうちに事件は起こった。
突然の衝撃音に驚いた俺と玲奈が戻ると、そこにはスクラップと化した二台の車があった。


「玲奈!救急車!!」


姉貴は右腕と右足を骨折する重傷だったが、命は助かった。だが父親は即死、母親は数時間後に息を引き取った。
加害者は飲酒運転で法廷速度を数十キロもオーバーしていたため、その衝撃から助かる見込みはなかった。


それからは父方の祖父母に引き取られ、玲奈が高校を卒業するまで姉貴も俺も色々な面で面倒を見てもらったが、玲奈が就職してすぐ、祖父母は安堵したように老衰で息を引き取った。
今後は親戚にも頼らず、三人で生活をしようと頑張り始めたが、しばらくして姉貴の事件は起きた。

姉貴は突然、朝食後に薬を飲んでいた。今までそんな事は一度もなかったのに、突然飲み始めたのだ。聞けば最近、身体の調子がおかしくなり、病院に行ったら様子を見ましょうと行って薬をもらったのだとか。一日一回飲まなければいけないらしく、病院から処方されたのなら必要なのだろうと考えて、俺は追求はしなかった。

だがそれから三ヶ月が経過すると、姉貴が朝帰りをするようになり、次第に朝帰りは徐々に増えていった。
検査入院と姉貴は言ったが、検査入院を週二のペースでやるなんて明らかにおかしい。姉貴が何かを隠していると考え、朝帰りをした姉貴がシャワーを浴びている間に玲奈がバッグを調べた。結果は真っ黒だった。

姉貴はヤクに手を出しており、LINEのメッセージ履歴には狂ったようなメッセージが続いていた。
日付を見ると、必ず朝帰りをした日の前日である。
つまり夜にヤクに手を出し、男達と遊んで朝帰り。しかも写真や動画まで残っており、ヤクを飲んで狂ったセックスのシーンだらけ。俺と玲奈はそれを初めて見た時、あまりの気持ち悪さに吐いてしまった。

会社の上層部を介して、警察や弁護士に相談した結果、姉貴を含めヤクで関係を持った男達は全員逮捕された。姉貴はそれから薬物治療の為の施設に入り、3年ほどして一時的に施設から出るのを許されたが、こっそりヤクを飲み始め、また狂ったセックスを続けていたのである。
それに気付いては施設へ戻し、また出ては戻し。いたちごっこになってしまったこの状況を終わらせる為に、明日施設へ戻し、姉貴を外出禁止にする。
これで落ち着くのであれば安泰、ダメなら一生外出禁止にするのもやぶさかではない。
お陰で玲奈も俺も精神的におかしくなってしまったのだ。落ち着いた生活が取り戻せるなら、姉貴を捨てても俺は仕方ないと思っている。


「お兄ちゃん」

「玲奈?」

「眠れないからさ、隣で寝ていいかな?」

「子供かよ」

「大人同士だろうと兄妹は兄妹でしょ、じゃ失礼しまーす」

「OKなんてしてないんだが」

「もう入ったから出ない。じゃ、おやすみ」

壮流 ( 2019/06/16(日) 00:21 )