case.6 齋藤飛鳥
08
「ただいま」

「ほら、バスタオル」


シャワーを浴びて戻ってきた飛鳥は草むらに隠れて体を拭き、そのまま着替えを始めた。
恥ずかしがらないところが変わっているが、組織に連れてこられなければ、こうはならなかったはず。黒兎は車で待っていたのだが、着替えがあっさり終わり、エンジンを温める前に飛鳥が戻ってきた。


「ん?また違う服に着替えたんだ」

「買ってもらったし、可愛いから」


白いミニスカートに黒いタンクトップ。服は飛鳥の選んだものを買ったため黒兎には「可愛い」という概念は無かった。
買ってやったんだから着ろ。ただ、それだけだった。


「ねえ」

「ん?何かな」

「私、もうすぐどこかに売られるんだよね。そしたら、どうなるの」

「・・・どうなるかな。今までの経験から想像すれば、君ならおそらく男達に性的に弄ばれて終わりだね」

「性的・・・それって、セックスってやつ」

「勿論。それに君のような娘ならば飢えた男達は大喜びだろうね。そして君は犯されるだけ犯されて、自ら命を絶つ。そんな未来が見える」

「・・・ねえ、うちが売られるって事はさ、うちは商品なんでしょ」

「ああ、そうだ」

「商品価値がなくなったら、どうなるの」

「そうなったら、あいつらはその辺に放り出して後は見向きもしなかったよ」

「捨てられるの・・・」

「・・・金にならなきゃ意味ないからね」

「・・・私、売られたくない」

「無駄だよ、今さら」


命乞いをする姿は何回も見た。飛鳥もそうだろうと鷹をくくった瞬間、飛鳥は予想外な事を話し出した。



「でも、売られなくなっても捨てられない方法って、簡単だよね」

「ん?どういうことかな」

「私が今この場で買われればいいんだよ、黒ウサギさんに」

「え?」

「ねえ、私の事買ってよ。商品価値はなくなっても捨てられないんだし。てかそれよりも、私、黒ウサギさんの事気に入っちゃって」

「・・・」

「黒ウサギさんに買われるんなら、正直なとこ、楽しいし」



思わぬ告白。いつだって冷静な黒兎も、これには驚きを隠せなかった。理屈はそうだ。飛鳥を買えば、飛鳥はずっと自分のものだ。しかも無料にする方法もある。
それも簡単。飛鳥とセックスをしてしまえばいい。処女を求め、性欲を溜め込んだ猿どもに渡すよりも、自分ならずっと上手いセックスをする事ができる。


「君は、変わってる」

「え・・・」

「・・・悪いけど、今日はもう一泊するよ。違う場所だけどね」




そう言って車を走らせ、走ること二時間半。黒兎と飛鳥が着いたのは、格安で泊まれるホテルだった。
親子でないことも隠さず、二人分の料金でチェックインをすると、早速部屋へ。


「ベッド柔らかーい」

「まだ寝ちゃダメだ・・・」

「え、寝るわけじゃないけど、どうしたの、目が怖いよ」

「そうかな?」

「う、うん・・・」



血走った両目。黒兎は心に決めた。飛鳥が欲しい、欲しいと。



「今から、君を買うよ」

壮流 ( 2017/07/03(月) 06:45 )