case.5 宮脇咲良
07
陽菜に連れられ、人気のない裏道に入った渉。そこから陽菜は更に道を外れると、渉の手を引っ張り、抱き寄せた。

「ねぇ、外でするの、好き?」

「構いませんよ?」

陽菜はここで渉を逃すまいと抱きしめ、強引にキスをした。渉も抱きしめて濃厚なキスを返した。
さあ、後は謎の組織を待つのみ。
と、言いたいところだが、その予定は大幅に狂うことになった。なぜなら渉が、陽菜の口を手で塞ぎ、更に陽菜が隠し持っていたナイフをこっそりと奪い、逆に人質にとられたからである。


「んん〜!」

「さて、自分に抱かれにきたのなら素直になれば良いものを、こんなもので脅そうとして、自分をどうするつもりでしょう?」

「んん!ん〜!」

「ご安心を、陽菜さんの目的さえ分かれば痛い事はしません。さあ話してもらいますよ。あなたは何者なのでしょうか。“血女”とは関係ないんでしょうか?」


大人しくなった陽菜が反撃しない事を察すると、渉はナイフを下げ、陽菜を解放した。


「血女とは関係ないよ、それだけは言っとく。でも正直、私は知らないことだらけだから説明が出来ないかも」

「どういう意味でしょう?」

「私ね、金山組ってヤクザの組織の愛人がいて、その人から言われて、渉さんの事誘ったの。あの男を絶対捕まえてこいって言われて」

「金山組・・・うーん、どこかで聞いたような」

「とにかくバレちゃったんなら連れていけないよね・・・どうしよう」

「大丈夫、自分の事を見なかった事にすればいいんです。それならば、後から何でも説明がつきますから」


ここで覚えのないヤクザに捕まるわけにはいかない。佑唯が待っているはずの宿へ向かわなければ。渉は走り去ろうとしたが、陽菜は事実を伝えるため、呼び止めた。

「待って!渉さんの友達なら、金山組に捕まってるの!」

「え・・・」


「渉さんを呼ぶために人質にとったの・・・」

「でもダメ、渉さん行ったら絶対に殺される!」

「・・・佑唯さんは関係のない方なんです。金山組に渡すわけにはいきませんね」


陽菜の制止も聞かず、渉は走り出した。金山組の事務所を聞いて一目散に向かうが、その道中だった。渉の脳内で何かの景色が再生された。頭を抱えながら走るも、景色は次々に再生されるばかり。するとその中の一瞬、渉は再生を止めた。
金山組だ。奴等ならばよく知った人物である。会うのは初めてじゃなかった。本当は以前、話していた客という記憶が残っていたのだ。



(金山組・・・はっ、確か・・・あの時、あの子を連れてきた・・・)


「ねえねえ、そこのお兄さん?」

走る渉を止める声。その正体をすれ違い様に見ると、その顔には見覚えがあった。何度も見た顔だ。


(ち、血女?)

「そんなに急いでどこ行くんです?急ぐのはわかりますが、疲れちゃいますよ」

「い、いや・・・今は、本当に急いでいるものですから」

「そうなんですか?残念、イケメンのお兄さん見つけたから期待したのに、急がなきゃいけないなら仕方ないか・・・」


やけに体を強調してきては近寄ってくる。誘っているのなら、彼女は血女、よりも痴女の方がぴったりか。


「咲良って言うの。イケメンさんの体が欲しいなぁ」

「・・・急いでますので」

「佑唯ちゃんの居場所も教えてあげちゃうけど、ダメ?」

「え・・・?」

「金山組のメンバーだっていう人にお金もらったの。あなたの事逃がさないでって言われて。でも咲良は、イケメンさんにそんな事出来るわけないよぉ。だってその人、見るからに悪人面してたしぃ」

「・・・いえ、教えてください」


「え、いいの?」

「早く教えてください、時間がないですから」

渉は咲良の黒いコートを脱がした。コートの中は、何も着ていなかったのを知っていたからだ。

「何でも話してあげよっかな」





「・・・よう颯、来たな」

「まりやとの夜はお預けだ」

「悪ぃ、じゃ埋め合わせは考えとくからよ。で、それよりも見ろよ」

「・・・血女、か」

「ああ、想像以上だぜ、こりゃ」

壮流 ( 2017/05/06(土) 00:14 )