05
あの若い夫婦を思い出す度、佑唯は寂しさを覚えてしまう。もし、旅についていかなかったなら、地元で彼氏が出来たかもしれないのに、今の自分は目的を失った状況にある。
ストリートライブをやっていても、今のところ喜ばれた成果は以前の町の喫茶店しかない。
悩んでも仕方ないのに、その悩みはどんどん自分を締め付けていく。
こんな時はどうすべきか。しかしそれを考える必要はない。
そう、渉という男がいるのだから。
いくら襲ってきたとはいえ、もしかすると渉に嫌なことでもあったのかもしれない。そうだ、そうやって、渉を受け入れれば、怖がる事なんてないのだ。
佑唯の心の壁は崩れ、表情が楽になった。宿へ戻ろうとした、その時。佑唯の前に二人組の男が立ちはだかった。
「・・・すみません、通してくれませんか」
「・・・」
「あの、通してくれませんか」
「・・・」
「むぐぅん!?」
突然、二人の男は佑唯を捕らえ、口を封じて車に連れ込んだ。
(た、助けて!白兎夜さん!)
その渉は未央奈と別れ、ネオン煌めき始める通りを歩いていた。
佑唯の危機など露知らず、遊び帰りの学生達や、夜から忙しくなる黒い男達で賑わっている、そのど真ん中を無心で闊歩していく。
血女に会ってみたい。その興味本位でこの通りにやってきたのだが、考えたら血女は追われる身なのだ。
そうそう会えるわけがない。もし、会えたならばどうしてみようか。
邪な考えを巡らせていると、渉の斜め前、スラリとした高身長の女性が歩いているのを見つけた。
「失礼」
「きゃ!」
「おっと、とてもお綺麗な方でいらっしゃいましたから、ついお声を」
「ナンパ?怪しい男にはついていかないわよ」
「顔をお見せしないといけませんでしたね、これは失礼」
「わ、イケメン・・・」
「イケメン、それは嬉しいですね」
自分も、この顔で女性をたぶらかす技に長けてしまっている。その点は血女と同じなのかもしれない。
渉は勢いに任せ、女性の手を引いて歩きだした。
「自分は白兎夜渉といいます、あなたのお名前は?」
「陽菜。そっち系の男以外にナンパされたの初めてだから、楽しみ」