01
竹内舞の事件から2週間。歩いて旅を続けてきた二人がたどり着いたのは、以前の都会とは違う、静けさが心地よい田舎の町である。
午後8時、いつもより早いストリートライブ、かと思いきや、今日は違った。
なんと、夜に営業している喫茶店の小さなステージで演奏をさせてもらえる事になったのだ。
その昨日、ストリートライブをしていた佑唯は喫茶店の店長に誘われ、店で歌ってくれとその場でスカウトされた。
夜の店にしては良い雰囲気で、数曲歌うだけで佑唯は褒められた。こんな辺鄙な田舎に旅の若い女の子がやってくるというのは非常に珍しかったのだろう。
「今泉さん、今日はありがとうございました。もしよろしければ、また明日もお願いできますか?」
「え、いいんですか?」
「旅の途中だと、同行されていらっしゃる方からお聞きしましたので、不都合だと仰るのであれば無理強いはしません。ただ、あなたの歌声はとても心に響く良いものですので、一日で聴けなくなってしまうのが勿体ないという、私の考えです」
「そ、そうなんですか・・・」
「あなたの都合に合わせますので、お気遣いなさらず、正直にお願いします」
「うーん・・・でも、私の歌がこんなに評価されたのは初めてですから嬉しかったです。なので、そこまで仰るなら、また明日も歌います」
「!・・・本当ですか!」
「はい、喜んで!」
佑唯はまた明日、この店で歌える。店長は佑唯のステージの為にと、とても張り切っているように見えた。照れ臭くはあるが、評価された事はとても嬉しい事である。佑唯はいつもより気分よく、今夜の宿へ向かってスキップしていった。
「やった、やった、あ、白兎夜さんだ!」
道の先に渉がいた。佑唯を迎えにくる道中だったようだ。
「白兎夜さん、私、明日もあの店で歌えるんです!」
「ほう、それは凄いですねぇ、佑唯さんの歌の素晴らしさを大勢の方に聴かせる事ができますねぇ」
「しかも出演料くれたんです!これ見てください!お陰で今日は気分がいいです」
旅を始めてから、こんなに喜んだ佑唯を見たのは初めてである。渉も、佑唯の笑顔につられて笑っていた。
「夜食を買ってきましょう、ステージを終えてお疲れでしょうからね」
「じゃ、先に宿に戻ってますね」
渉は急いでコンビニに入った。佑唯は先に進んでいき、5分ほど進んで道を曲がったその時、佑唯は後ろから声をかけられた。
「お嬢ちゃん、いいかい」
「え?はい・・・」
見た目は40代といった雰囲気の男。佑唯はひとまず、愛想よく答えた。
「さっきのステージ、よかったよ」
「え、もしかして、さっき喫茶店にいたんですか」
「そうだよ。奥の席で聴いててな。で、さっきのステージよかったよ、若い子なのに凄いね」
「ありがとうございます!実は明日もあのお店で歌うんですよ!」
「ほう、そうなのかい?それは良かった。それにしても、お嬢ちゃん、どこから来たのさ、こんなに若くて可愛いのに、こんな田舎まで」
「実は、旅をしてるんです」
「旅?なんだ、一人で放浪の旅でもしてんのか?」
「いえ、一緒に旅をしてる男の人がいるんです。もうすぐ追い付くと思うんですけど、まだ来ないなぁ」
その言葉を聞くと、男は突然佑唯を後ろから羽交い締めで拘束した。
「え!な、なんですか・・・」
「男がいるのか、お嬢ちゃん・・・そうか・・・」
「離してください!」
「・・・悪いね、離すわけにはいかないよ。おじさん、残念ながら若い女の子には目がなくてね、自分を抑えられないんだ」
男は若い女子なら無差別に手を出すのだろうか。このままでは佑唯が何をされるか分からない。渉もまだ来る様子がないため、万事休すに陥った。
「い、や・・・離して!」
「ごめんね、おじさんは・・・」
「ちょっと、何してんの、あんた」
背後から声がした。だが、声は男性の声ではなかった。佑唯を羽交い締めしながら振り向くと、そこには一人の女性がいた。