case.3 竹内舞
06
次の日。ひとまず回復した渉は貴博の家を出ると、民宿にまっすぐ戻った。携帯の充電もしてもらったため連絡もつく。その道中で佑唯に電話をかけると、電話の向こうから不機嫌な声が飛んできた。


「もう!昨日は戻ってこなかったしどこ行ってたんですか!」

「・・・すみませんね、事情はそちらに戻ってからお話しします」

「昨日はお客さんもいたのに、渉さんに話したくても話せなかったからつまらなかったです!」

「・・・すみません、後程お聞きします」

「早く帰ってきてくださいね、この旅は白兎夜さんと私の旅なんですから、一人じゃ成立しないんですよ」



一人じゃ成立しない。言葉が渉の心を貫いた。佑唯はこの旅についてきてくれただけなのだから、先導しなければならないのは渉の方だ。
目的もなく道を行くとは言っても、渉が止まってしまったら終わりである。この心のざわめきは何なのか、それを考えながら、真っ直ぐ民宿へ戻っていく。

(何なんでしょうか、久しぶりに言った気がしますねぇ・・・心の底から“ごめん”と)


貴博の家を出て約20分。民宿の前には佑唯がいた。渉に気付いた佑唯は笑顔で手を振って迎えた。


「ご迷惑をおかけしました、昨夜は飛び出して以降、戻れず・・・竹内舞さんが強姦に遭った時、危機感が自分を呼び起こしたが故、飛び出してしまいました」

「で、その包帯は何なんですか?」

「ああ、これはその時、強姦魔達に暴行を受けましてね、危機は察知できたのに、自分の力不足が原因でこんな目に・・・それで昨夜は、竹内舞さんのご友人の方に介抱して頂きました」

「ふーん・・・ま、とにかく無事でよかったです」

「・・・やはり、許すまじと」

「・・・だって、聴いてくれたお客さんがいたから嬉しかったのに、白兎夜さんがいなかったんです・・・寂しかったんですからね」



佑唯が不機嫌なのは、ストリートライブの成果を報告しようとしたのに話す相手がいなかったからだった。渉がいないと、佑唯は孤独に喜ぶしかない。怪我や飛び出した理由などどうでもよく、渉が戻らなかったのが一番の原因だったのだ。


「これから毎度毎度、一人にしないでください・・・」

「・・・気をつけます」

「それで、事件について何か進展はあったんですか?」

「・・・それなら、いい情報が手に入りました。あのスポーツジムのトレーナーさんが、竹内舞さんの彼氏だという事です。そして犯人は、竹内舞さんの携帯を遠隔操作して、この出会い系サイトに登録させています。これを見てください」


「な、何ですか、これ。“私はいつでもセックス相手募集!皆で私の事犯しまくって!”って」

「本人は、そんな人じゃないです。とても心の綺麗な方です。ご友人の方も、違うとわかっています」

「そしたら、怪しいのは・・・」

「ジムのトレーナーさんです。ですが、自分達には残念ながら介入はできません。あまり他人の秘密に入りすぎるのは竹内さんを傷つけてしまいます」

「で、でも、ここまで知ったんだったら、協力は大丈夫なんじゃないんですか?」

「・・・竹内さんには悪いですが、これ以上は・・・ん?」



渉は佑唯の後ろから走ってくる車に気付いた。その車は渉と佑唯の前で停まり、運転席から出てきたのは、貴博だった。


「あれ、あなたは貴博さん・・・」

「あ!昨日のイケメンさん・・・」

「まだ離れてなかった、よかった!二人とも乗れ、まいまいが危ないんだ、協力してくれ!」

「えっ・・・」




その竹内舞はというと、スポーツジムにいた。実は今日はジムの休業日なのだが、舞はそれを利用してトレーナーに会っていた。


「昨日はね、偶然、助けにきてくれた人がいたの・・・」

「て、ことは、また強姦に遭ったのか」

「うん・・・でも、うちが叫んだ声を聴いて駆けつけてくれた人がいたんだけど、うちの目の前でボコボコにされちゃって・・・でも、そこに高校の友達が来てくれて、うちもその人も助かったんだけどね」

「本当に運がよかったな、それ」

「あの人には本当に申し訳なかったよ・・・うちの為に暴行されて」

「いつか会えたら、礼言わないと」

「うん」


慰めてくれている彼氏だが、舞は様子がおかしかった。


「ね、このサイト、全く知らないうちに登録されててさ、私の事が尻の軽い女みたいに書かれてんだよね。ほら見て、これ・・・」

「誰がやったんだろうな、こんなひどい事」

「出会い系とか、検索だってした事ないのに・・・」

「・・・こんなの、舞の価値を否定してるよね。でもさ、俺・・・」

「えっ」

突然抱き締められた舞は目を開いて驚いた。



「舞は確かにナイスバディだから、男は無意識に惹かれちゃうかもしれないけどさ、強姦魔はそんなの関係なく襲ってくるもんね。舞の価値を何だと思ってるんだって、そう聞きたいよね」

「・・・うん」

「その友達、確かあの貴博ってやつだったよね。じゃ、その人と俺だけが違うって、そう信じてよ」

「・・・うん」



不器用ながらも慰めた。ところが、舞はここから違う方向で切り込んできた。


「ね、ひとつ聞きたいんだけどさ、あたしの価値って、何?」

「え?」

「魅力とか、長所とは違うでしょ?価値って何か教えてよ」

「そうだ、な・・・舞の価値・・・言い切ったものの、どう言うべきなのか・・・・・・」

「あんまり格好つけないようにね」

「あー失敗したな・・・価値とか言っちゃったら、ねぇ・・・う、ん?でも、意外に簡単かもしれないな」

「え?」

「うん、素直に考えたら簡単に答え出たわ」


そう言うと、彼は立ち上がって背を向け、ペットボトルの水を飲むと、振り返らずに喋った。

壮流 ( 2017/02/01(水) 00:54 )