05
深夜1時。今泉佑唯のストリートライブは終わった。3曲を歌い終えた彼女の前には、渉、衛藤美彩、更に数人のお客がいた。
渉のように聴き惚れたのかどうかは別にして、こんなにお客がいたのはストリートパフォーマーを始めて、初めての事である。
片付けを始めると、渉は今泉佑唯の手を握り、笑顔を見せた。
「とても素晴らしい歌でした」
「ありがとうございます、あ・・・あの、お名前は、なんでしたっけ」
「白兎夜渉と言います。旅の途中、あなたみたいな素晴らしい方に出会えて嬉しいです」
「旅人・・・そこまで褒めていただけて、本当に嬉しいです」
「ちょっと、いつまで手を握ってるの!」
「おっと、これは失礼」
「あの・・・旅って、何の旅をしてらっしゃるんですか?」
「・・・なんでしょうねぇ、探しているものがあるんですが、それが何か、分かりません」
「分からない・・・?」
「また言ってる、結局教えないの」
今泉佑唯はこの時、渉にシンパシーを感じた。渉は“それが何か分からないのに、それを探して旅をする”という目的がある。
自分も、もしかしたら同じことをしているのかもしれない。
こうしてストリートパフォーマーを続けてきたが、そもそものきっかけは、昔から叶えたい夢があったからである。
歌手になりたい、という夢が。
「あの、白兎夜さん!あの、お願いがあります!」
「?」
「明日、お時間はありますか?」
「ええ、いつでも空いていますよ」
「じ、じゃ、明日、夕方の5時に、ここで待ち合わせをしてください!ダメですか?」
「・・・大丈夫です、5時ですね」
「ありがとうございます!」
片付けを終え、今泉佑唯は帰っていった。その場に残された渉と衛藤美彩。目を合わせると、その場から並んで歩いていく。
「はぁ、なんかバタバタだったけど良かったね。あの子の歌」
「とても素晴らしいライブでした。自分にとっては、どんな人気歌手よりも凄い歌声でした」
「ね。それに私、もっと凄い収穫をしちゃったし」
衛藤美彩は腕を組み、渉に笑顔を見せた。
「渉さんの顔、超イケメンだったんだね。あの子をきっかけに出会ったし、これは運命かもね?」
「・・・で、どうしたいんですか、この腕は」
「・・・そうだな、ちょっとだけ、今夜は悪い女になっちゃおうかな」