case.2 今泉佑唯
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深夜1時。今泉佑唯のストリートライブは終わった。3曲を歌い終えた彼女の前には、渉、衛藤美彩、更に数人のお客がいた。
渉のように聴き惚れたのかどうかは別にして、こんなにお客がいたのはストリートパフォーマーを始めて、初めての事である。
片付けを始めると、渉は今泉佑唯の手を握り、笑顔を見せた。


「とても素晴らしい歌でした」

「ありがとうございます、あ・・・あの、お名前は、なんでしたっけ」

「白兎夜渉と言います。旅の途中、あなたみたいな素晴らしい方に出会えて嬉しいです」

「旅人・・・そこまで褒めていただけて、本当に嬉しいです」


「ちょっと、いつまで手を握ってるの!」

「おっと、これは失礼」


「あの・・・旅って、何の旅をしてらっしゃるんですか?」


「・・・なんでしょうねぇ、探しているものがあるんですが、それが何か、分かりません」

「分からない・・・?」

「また言ってる、結局教えないの」



今泉佑唯はこの時、渉にシンパシーを感じた。渉は“それが何か分からないのに、それを探して旅をする”という目的がある。
自分も、もしかしたら同じことをしているのかもしれない。
こうしてストリートパフォーマーを続けてきたが、そもそものきっかけは、昔から叶えたい夢があったからである。
歌手になりたい、という夢が。


「あの、白兎夜さん!あの、お願いがあります!」

「?」

「明日、お時間はありますか?」

「ええ、いつでも空いていますよ」

「じ、じゃ、明日、夕方の5時に、ここで待ち合わせをしてください!ダメですか?」

「・・・大丈夫です、5時ですね」


「ありがとうございます!」




片付けを終え、今泉佑唯は帰っていった。その場に残された渉と衛藤美彩。目を合わせると、その場から並んで歩いていく。


「はぁ、なんかバタバタだったけど良かったね。あの子の歌」

「とても素晴らしいライブでした。自分にとっては、どんな人気歌手よりも凄い歌声でした」

「ね。それに私、もっと凄い収穫をしちゃったし」



衛藤美彩は腕を組み、渉に笑顔を見せた。


「渉さんの顔、超イケメンだったんだね。あの子をきっかけに出会ったし、これは運命かもね?」


「・・・で、どうしたいんですか、この腕は」

「・・・そうだな、ちょっとだけ、今夜は悪い女になっちゃおうかな」

壮流 ( 2017/01/13(金) 21:22 )