03
「さて、戻ったのはいいけど、どうしようかしらね」
未央奈は一人、先程の通りへ戻って祐唯を探した。一人になった感覚は人混みの中にいるはずなのに寂しい感触がしていた。
翔が美彩とセックスしている事は大して問題ではなかったのだが、今の未央奈は何かが無くなったような状態だった。
地下鉄の女性トイレに入り、鏡を見ると、未央奈は気づいた。
「あたし、こんな顔してたのね・・・もしかして、私はもう?」
血に飢えていた女の顔ではなく、そこに写っていたのは、何かに満足していたような、本当の素顔。
暗罪黒兎の血を24時間吸っていたいと半狂乱だった女の顔はどこにもなかった。
今の未央奈は、ただ純粋に翔に協力しようとしている。それが見えた未央奈は元の場所へ戻り、もう一度祐唯を探した。当てもないのだが、ただひたすらに。
「ねぇねぇそこのお姉さん、うちの店来ません?」
「丁重にお断りするわ。急いでるから」
客引きにも乗ることなく、血を求めることもなく、祐唯を探しておよそ20分が過ぎた頃、未央奈はある人影を捉えた。
ストリートパフォーマンスの空き場所に一人の女性がいるのに気づき、その女性に何かを感じていた。
しばらく見つめていると、不意にその顔がこちらを向き、未央奈は目が合った。
「あ・・・」
女性は髪の毛こそ短いのだが、顔は覚えがある。翔が何度も話し、何度も見せてくれた女性と同じだった。
彼女が今泉祐唯。未央奈は急いで祐唯に駆け寄った。
「ねぇ、ちょっと!」
「?・・・はい?」
「あなた、暗・・・じゃなかった、白兎夜渉って知ってる?」
「!」
「・・・知ってるのね?」
「はい、勿論です!」
「・・・あなた、祐唯って名前?」
「そうです!渉さんの知り合いなんですか!」
「そうよ・・・ねぇ、渉さんに会いたい?」
「会いたいです!警察の人に家に帰された時からずっと、ずっと・・・会いたくて死にそうでした」
「そう・・・分かった、少し待ってくれる?」
翔に電話しようと、未央奈は携帯を取り出した。が、しかし。
「見つけたぞ!堀未央奈!」
「え・・・」
「警察だ、確保する!」
「・・・やられたわね」