01
あの日、祐唯と出会った場所。翔は夜の11時を回った頃、あの場所にやってきた。人混みの歩く道の端にストリートパフォーマーがちらほらといる中、祐唯はそこにはいなかった。
未央奈は面倒が起こりそうではあるが、連れてきていた。
右手の中指と人差し指、左手の人差し指は包帯が巻かれているため、血が欲しくなったと言われた時に切る指も減ってきた。できれば祐唯の前では欲しがらないでほしいのだが、未央奈は大丈夫と言って聞かない。
不安要素は残るものの、仕方のないことだった。
顔がバレないよう、未央奈とはカップルを装って、祐唯がいた場所の近くでイチャイチャしていた。
「ねぇん、血を吸わせてぇ」
「・・・結局、それですか」
周りに聞こえたら明らかにおかしいカップルだと見られる。既に素性を明かしてはいけない立場なのに、怪しまれるだけでも危ない。
ところが、この場で待ち始めてから20分、翔の前に見覚えのある女性が通った。
「んん?どうしたの、見つけた?」
「いえ、目的の方ではなかったのですが、知った方がいまして」
「そうなの」
「・・・そうだ、いい事を思い付きました。少し待っていてください」
未央奈を待たせ、先ほどの女性を追いかけた。急いだ分、すぐに追い付く事ができ、翔は小さい声で肩を叩きながら呼び掛けた。
「美彩さん」
「え?・・・あっ!」
「おっと、すみません、静かにしていただけますか・・・」
「ち、ちょっと、そっち行って話そう?」
美彩を連れ、路地の角に行くと、翔は美彩に一瞬だけ顔を見せた。
「というわけで、あの時お会いした自分は、暗罪黒兎だったわけです」
「そんなことはどうでもいいの、もしかしてここに戻ってきたのって、あの子を探すため?」
「勿論です」
「・・・ちょっと残念だけど、会うのは相当難しいと思う」
「どういう事ですか」
「あの子が誘拐された被害者で、戻ってきたのはいいけど、またあなたがこっちに来ると想定して警察が街中をパトロールしまくってるのよ。しかもあの子の家の周りは厳戒態勢だし・・・」
「なぜそこまで・・・」
「あなたが強姦事件を起こして逃亡した後、“誘拐した女性にもう一度接触しようとしている”ってニュースで流れてた」
「なるほど・・・」
「で、しかも殺人犯も一緒にいるって言ってたよ?」
「ああ、その方は今、祐唯さんと会った場所の近くで待機させてます」
「どうするつもりなの?誘拐なんてしないって分かってるけど、嫌な予感がするの・・・」
「・・・いえ、何もしません。祐唯さんに会いたいだけです。それに、自分にはもう時間がない事がわかっていますので」
「え・・・」
「自分はもうすぐ死ぬでしょうね」
「な、何を言ってるの!?」
「なんだか、そんな予感がするんですよねぇ」