あいつには・・・言えない
四日後。買い物から帰った颯とまりやは自宅に入った。
二人が帰ってきたのを確認した娘が玄関に出てきた。
「おかえり」
「ただいま、南那これ台所持っていって」
「はーい」
15歳になった南那。少しつれない所が出てきたが、玄関まで来て出迎えてくれるあたり、颯とまりやを受け入れてくれている。
そして長女の方はというと。
「おかえりー、ほら、パパよぉ」
「パパー!」
綾巴にくっついて出てきた娘。四歳になり、元気は一番。
綾巴も22である。就職に向けて大学卒業を目指すべく、勉強中。
そしてその母、玲奈はというと。
「玲奈は?来てないのか」
「新婚旅行に行ってるよ。だから少しの間パパの家にいるから」
「聞いてねえ、そんな話・・・」
なんと、玲奈は別の男と結婚した。南那や綾巴も受け入れてくれているらしいが、二人は颯の方が良いと言った感じのようだ。
「南那、この前楓子から祝いでもらったやつ持ってきて、今夜は鍋にするから」
「はーい」
こうして仲睦まじく、夫婦はゆっくりと二人の時間を取り戻していた。
娘がいようと、問題はない。
綾巴との約束通り、家族を一人増やして帰ってきたのである。
「綾巴ちゃん、ごめん、そこにお薬あるから取ってくれる?」
「うん、はい」
「ありがと」
まりやは体調が優れないという。
だが病気ではない。その理由を決定付けてくれるのが、まりやの下腹部にある。
「順調か」
「つわりが来ちゃうから、順調な証拠でしょ」
「まりやとの子供、ずいぶん元気な事で」
「あなたに似たらどうしよう」
「俺に似たら、頑丈な体になるな」
「女の子だったら嫌よ」
まりやにも子を宿し、颯はまた一人子供を増やした。
種馬ゴリラの名を、逆に確固たる地位へと押し上げたのだ。
(だが、あの全面戦争の前に一人孕ませてるなんて、言えるわけがないんだがな)
「ほーら、田野ちゃんだよー」
「あーん、可愛いよぉ、奈和ちゃんみたいに可愛いー」
「田野さんも子供産んだんですよね?カジさんがパパだから、頭の良い子になりそうですね」
「でも、顔が心配だもん。見てよ、あの顔・・・」
「ん?何スか、古畑?」
「ですね、ふふ」
子供を連れて仕事場に来ていた奈和は、田野と共に梶本を笑った。
田野は梶本と結ばれたため、子供は当然梶本との間に出来た子。
ということは、奈和の子供の父親は勿論、颯である。
颯が会社を辞めてしまったことで、会うことは無いかもしれない。そう割り切ったかのような文章がメモ書きとして、颯のデスクに貼られていた。
(課長、短い間でしたが、私は幸せでした。この子は大事に育てます。だから課長も私の事を忘れないでください。
末永くお幸せに、さよなら・・・)