最終章
希望が見えてきた
その日の夜7時。淳の家。遥香はまた外に行っていた。
夕食の用意をする美瑠と李苑だが、今夜は明らかに量が多い。七瀬がいるにしても多すぎる。
その理由はというと。


「おーい、美瑠、戻ったぞ」

「あ、帰ってきた。李苑ちゃん、急ご!」

「はい!気合い入れましょう!」




入ってきたのは淳、颯、綾巴、最後に遥香。
淳が夕食に誘ったのだ。


「颯くん久しぶり!」

「西野!?」

「どうだ、目を疑うだろ」


「27年ぶりだよ、クラス会も同窓会も俺は行ってないからな」


「ななも行ってへんで、ていうか、その子誰?まさか颯くんの?」


「ああ、娘だ。娘の綾巴だ」


「ええー!めっちゃ可愛い!いくつ?」


「19だ。もうすぐ大人になる」

「大人になんかならんでええやん、このまま変わんないでほしい」


べた褒めされた綾巴は照れながら颯の腕に抱きついた。七瀬に背中から抱きつかれ、どうしていいか分からない綾巴は淳を見た。


「おじさん、助けて」

「七瀬、綾巴ちゃんを困らせんな」

「だってー」


「はーい、颯さん、淳、ご飯出来たで」



結局、言い合いは自然消滅。テーブルを囲み、乾杯をすると、淳と颯はぐいっと一口日本酒を飲んだ。


「颯くんにお酌してあげよっと」

「ありがとう、西野」


「じゃあ俺のお酌は綾巴ちゃんがしてくれよ」


「こら、未成年にさせない」


「いいじゃねえかよ、なんなら、綾巴ちゃんこいつを飲んでみるか?19なんだろ?」


「ダメですよ!ペロリも禁止です!私にはそう言ったくせに、他人の子供にはいいんですか」


「ったく、李苑は黙っとけ」


「ちょっと!」



未成年は飲酒禁止。お酌くらいならいいだろうとは思うが、綾巴は七瀬を見ていた。自分の父親にお酌をしている七瀬に嫉妬心が芽生えていたのだ。


「パパのお酌やる・・・」


「ん、ありがとう、綾巴」


「・・・ふふふ」



「ん?美瑠、何笑ってんだ」


「綾巴ちゃん、可愛い・・・」




「?・・・まぁいいか。おいそれより颯、お前に話があんだ。ベランダに出ろ」


淳と颯はベランダに出ると、煌めく夜景を見ながら話を始めた。この夕食の本来の目的は、颯に伝えなければならない事があるからだ。
男二人、さっきとは打って変わって真剣な眼差しで口を開いた。



「悪い話と良い話、どっちから先に聞く?」


「じゃ、悪い話で」

「おお、そうか。じゃ単刀直入に言うとだな。永尾まりやを小室がどうしたいか、それが島崎のお陰でわかった」


「小室が・・・」


「あいつは立場のために、永尾まりやと結婚するつもりらしい。あのバカはどこまでいってもバカだ。女なんかオモチャとしか見てねえ」


「立場のために、結婚・・・」


「地獄がさらに深くなっただけ、永尾まりやに光は届かなくなる。以上が悪い話だ」


颯は何も言わず、グラスを持つ手を振るわせていた。



「・・・いい話になるが、聞くか」


「・・・話せ」


「いい話はな、永尾まりやを地獄から引きずり出すビッグチャンスがあるって話だ」


「!?・・・助かるのか」


「俺はな、式に忍び込めるんだ。なぜかっていうと、俺は式場でコンシェルジュとして招待されたんだ」


「・・・じゃ、頼む!俺をこっそり忍び込ませてくれ!」


「落ち着け。式場なんだが、実はお前も知ってる場所なんだ。ハイパーブライトって聞いたことあるか?」


「!・・・ハイパー・ブライトって・・・」


「あの場所だからこそ、チャンスさ。永尾まりやの親族なんか呼ばれるわけがないだろうし、その時間は小室組、そして親交のある組だけが独占してんだ。だから・・・」


「全面戦争か」


「ご名答。横山組が全面協力する。お前のためにだよ、颯」


「俺なんかの為に・・・」


「颯は横山組のお得意さんだ。尚且つ、由依姐さんは颯に惚れてんだ。来年で50なのに色目なんか使っちまってな」


「横山さんが・・・」


「だけどな、それ以前に颯、お前は俺の相棒。それ以外の何でもねえ。お前の為ならやる、そうでなけりゃ何だってんだ」



「淳・・・」



「結婚式は6日後。手を貸すぜ、相棒」


笑顔で右手を差し出す淳。颯は左手で涙を拭うと、右手で固い握手を交わした。



「頼む、相棒」


「任せな。さ、中で飲もうぜ」

「あ、戻ってきた。二人で何の話してたん?」


「男同士の秘密だ」

「そういう事だ。綾巴、お酌をしてくれ」


「うん!」





希望の光がすぐそこに見えてきた。
もうすぐ会えるかもしれない、最愛の人。
颯と淳は笑いながら飲み続けた。

壮流 ( 2016/10/10(月) 23:59 )