最終章
七瀬に振り回される淳
「んん・・・」


朝の八時。淳は目を覚ました。まだ誰も起きていないためか、部屋の電気が点いていない。朝一番の目覚めである。
体を起こそうとした時、淳の背中に誰かがしがみついている。寝相の悪い美瑠か、寝ぼけた遥香か。淳はその顔を拝もうと起き上がって確かめた。


「・・・ん!?」


正解はどちらでもない、だった。じゃあ李苑、でもなかった。寝ているのは七瀬だったのだ。


「なんで、七瀬が?」

七瀬はメイクも落とさずに寝ていた。遥香に連れてきてもらった時には深夜の3時になっており、何かするのも面倒だったのだろう、遥香も七瀬もぐっすりだったようだ。
一旦落ち着こう。淳は七瀬を起こさないように立とうとしたが。


「痛!痛!!足つった!足つった!」


このタイミングで足がつり、悲鳴をあげた。
お陰で全員起きてしまい、淳はただ恥をかいただけに終わった。


「うるさいー、淳・・・」

「朝から何を騒いでるんですか・・・って、あれ?誰かいる!」


「もう、うるさいなぁ・・・」


「足つったんだって!ちょ、助けろって!足が痛い!!」



淳の足を治し、七瀬を起こし、時刻は八時半。李苑が朝食を作る傍ら、七瀬、遥香はここにやってきた経緯を話した。


「じゃあ島崎が連れてきたのか・・・しかも3時かよ」

「小室の部下に追われている途中で、七瀬さんを拾ったんです・・・」

「そりゃ仕方ないとはいえど、そんな時間までお前は何をやってたんだ、それが知りてえよ。前も言ったが、単独行動禁止だからな」

「ええやん、一人でいたい時なんか誰にだってあるやんか」


「いや、七瀬も同じだからな。そんな時間に外にいるなよ」



結局、話はうやむやのまま自然消滅。七瀬は遥香と一緒にシャワーを浴びにいった。
だが問題はそこではなく、なぜ遥香が“あの場所を通るのが分かったのか”という事と、なぜ遥香が淳の部下なのを知っていたのかという二つの理由。
七瀬がシャワーを浴び終えた後、淳は単刀直入に聞いた。

「遥香ちゃん、前に小室の事務所行ってたやろ?それで知ってる。で、あの道を通るのが分かったのは、勘、やな」

「だめだ、真面目な答えを期待した俺がバカだった」


「なんやねん、そっちから聞いといて」


「うるさい、早く朝飯食え」


「え?ななの分もあるの?やったぁ」


面倒そうに七瀬をあしらっているが、朝食までちゃんと用意するあたり、淳の七瀬に対する想いが見える。


「七瀬、バスタオルのままウロウロするな、服を着ろ」


「なんで?女の子だらけやからええやんか」

「男はここにいんだろが」

「淳やからええやん」

「どういう事だ!とにかく服を着てくれ、美瑠も島崎もバスタオル巻いただけでウロウロするから、目のやり場に困る・・・」


「え?淳さん、それはバスタオルを剥がして、あんな事したいって誘ってますか?」


「お前は喋るな、島崎が入ると話がこじれる」


「別にバスタオル巻いただけで部屋を歩いてもええやんなぁ、七瀬さん?」


「みるるんの言う通り!あ、もしかして淳は、なな達の裸を想像してるん違うの?」


「・・・李苑!」


「ええ!助けを求めないでください!」


七瀬のペースに煽られ、淳はたじたじだった。
朝食を食べ終えると、淳は七瀬と一緒に外へ出る事に。美瑠、遥香、李苑はおらず、二人きりの散歩である。
淳の腕に手を絡ませて歩く七瀬は、とても楽しそうだった。



「中学生の時以来かぁ、覚えてる?」


「・・・覚えてるよ。付き合ってたんだから」

「せやなぁ、覚えてへんて言われたら泣く」


「むしろ忘れるわけねえだろ」


「へえ、じゃ、初めてななにくれたプレゼントは覚えてる?」


「初めて?そりゃあれだ、あの、靴だろ」


「ぶっぶー、全然違う。覚えてないやんか」


「いちいち覚えてねえよ、そんなもん」


「どっちやねん、忘れねえって言ったくせに」


「じゃ、何あげたんだ?教えろよ」


「自分で思い出して」



この掛け合いだけで、二人は永遠に会話が出来るのではないだろうか。離れることなく二人はしばらく歩き続け、途中で二人は商店街に立ち寄った。


「あ、あそこ、入っていい?」


七瀬が入りたいと言ったのは服屋であった。
この時、淳は嫌な予感を察知し、七瀬からさりげなく距離をとった。


「これとかええなぁ。あれ、淳?」

七瀬はすぐに気付き、淳を呼び戻した。やはり嫌な予感は的中した。


「淳くん、これ全部買っていい?」


「・・・金は」

「ごめん、淳くんお願い」

「・・・はぁ」


合計12.593円。全て淳の奢り。荷物持ちも無論だが淳の仕事。


「どう?似合う?」


「似合う・・・んじゃねえか」

「んー、はっきりしない答え。素直に“可愛い”って言うてやぁ」


「なんなんだ、素直に言えって」

「淳の口から“なな可愛い“とか聞いたことないもん」


「お前のペースについていけねえから何を喋るにもタイミングが無えんだよ!」


「タイミング?ななが聞いたら返せばええやんか、タイミングなんか気にする必要ある?」


「こっちが喋る前にお前がどっかに行くか、更に喋ってくるか、そのどっちかのせいで言えねえんじゃねえか!で、“可愛いって言ってくれない”じゃねえだろうよ」


「なんでキレんねん、中学生みたいやんか」


「どっちがだ!」


「じゃ、屁理屈親父にする。そんなキレたらあかんで。ほら、行こ」


七瀬はまた淳と腕を組んだ。いとおしくも見える天真爛漫ぶりを存分に発揮しているが、この姿を見ることが出来るのは淳だけだろう。
あれこれ振り回されるのは、七瀬の愛情。淳が素直になっていないだけである。
昼になっても七瀬と歩き、やってきたのは大きな公園。
ベンチに座ると、七瀬は水遊びをする子供を観ていた。


「うちも子供欲しいなぁ、42歳で子供産むの大変やからなぁ」


「アラフォーの女にはキツい問題だろうな」


「もうちょっと早く淳くんに会えたら、可能性はあったかも分かれへんなぁ」


ごくりと唾を飲む。もしそうだったとしたら、自分は七瀬をラブホテルに連れていって朝までセックスを続けたはず。七瀬にそんな事を誘われて、誰が断るだろうか。
颯だって行くはず。


「唐突やけど淳くん、中学生の頃の話になるけど、卒業式覚えてる?」


「当たり前じゃねえか、第二ボタンまであげたのに」


「覚えてるん、じゃ、卒業式の次の日にしてた約束は覚えてる?」


「・・・当たり前だろ、デートだろ」


「ちゃんと覚えてるんや、淳くんやから意外」


「むしろ忘れねえよ、七瀬がドタキャンした唯一のデートだぞ」


「・・・ドタキャン、したなぁ」

七瀬は急に顔が暗くなった。


「あの時ドタキャンした理由なんやけど・・・

壮流 ( 2016/10/08(土) 18:42 )