淳のけじめ
一方、颯は四階に到着。乗り換えのエスカレーターを目指して突き進む。すると進む先に、明日香と由依がいた。
「横山さん!倉持さんも!」
「あ、颯くん!やっときた!」
「久しぶりやね、颯くん」
「まりやは?」
「下に降りてるわ、美瑠ちゃんから二階にいるって」
「そうですか、ありがとうございます!」
「さ、早く行って行って、ここは私と由依ちゃんに任せて!」
颯はエスカレーターに進んでいく。その後ろ姿を残念そうに見つめる由依がいた。
「一回くらいハグしてもらいたかったなぁ」
三階。ここから降りればまりやのいる二階に着くが、吹き抜けから下を覗くと、一階に小室がいるのが見えた。
「もう少しだ・・・」
しかし二階では、美瑠とまりやに危機が迫っていた。新手の組員がまりやに気づき、取り戻そうとしていたのだ。
「やば、これじゃ逃げられへん!」
「あ!美瑠さん・・・前!」
「おっと、こっちは逃がさねえぞぉ」
回り込んできた組員に挟まれた。人数は四人。淳なら全員倒せそうだが、美瑠にそんな実力はない。
じりじりと詰め寄られ、ここにきて終わりかと思われたその直後。
「どわぁ!なんだ、ぶへぇ!」
「おい、誰か落ちてきたぞ!」
上の階から人が降りてきたと思えば、先回りした男に飛びかかり、殴ってダウンをとった。
「美瑠、下がれ!」
「颯さん!?」
「ぶぉっ!」
「こいつ!」
「それがどうした!」
「ふぐぉ!」
颯は残りの三人をダウンさせた。重いパンチが顎や頬に直撃し、歯も飛ぶほどの衝撃。
その闘志溢れる背中は変わらなかった。
「ほら、颯さん!」
「・・・まりや・・・・・・」
「課長・・・本当に・・・課長なんですね」
「ああ、俺だ、立石颯課長だ」
「課長!」
積もりに積もった想いが、互いに溢れ出た。
また会える日がきて、抱き合う日がくるなんて無いかもしれなかった。
この一瞬だけでも、二人は熱すぎる抱擁を交わしていた。
「課長・・・!」
「と、すみません、颯さんもまりやさんも会えて嬉しいでしょうけど、先にここから逃げないと」
「それもそうか。まずはここから出よう」
「で、二人とも聞いてください。実はすぐそこに小室がいるんです、だから・・・」
そして遂に一階。小室の前にやってきたのは。
「・・・そろそろ決着をつけようか」
「君がやってくるとはね、鴻上・・・立石颯はどうなったんだい」
「颯はもう行ったよ。花嫁を連れて、どこかにな」
「なんだと!?」
つい10分前のこと。
(うお?颯!やっとか!で、なんで三階まできた?)
(颯さんとまりやさんだけ逃がすの。地下から行かせるから、エレベーター動かして)
(小室は?)
(一階にいる。だからばれないようにエレベーター使うの)
(なるほどね・・・)
(淳、今の内に言っておく。まりやを取り戻せる日がくるなんて思わなかった。お前が相棒で良かった、いや、お前じゃないとダメだった)
(バカか、逆だろ。お前が相棒だから引き受けたんだろうが。知らねえ野郎の頼みなんざ、金がなきゃ引き受けねえよ)
(・・・ありがとう)
(へっ・・・おら、早くいけ。落ち着いたらまた会おうぜ。そん時ゃ、行きつけの店で一番高い酒を奢ってやるからよ)
(楽しみにしてる。行くぞ、まりや)
(はい、課長・・・)
「・・・この・・・君はどこまでも味方をしてくれると思っていたのに・・・許さない、まず君から片付けてやるよ、鴻上君!」
「やってみな、下っ端の頃の俺とはわけが違うぜ」