最終章
必ず帰る
「綾巴、ちょっといいか」


「なに、パパ?」


颯は綾巴を呼ぶと、ベッドの端に座った。



「綾巴、大事な話がある。聞いてくれ」


「なに?」


「パパはもしかしたら、近いうちにいなくなるかもしれない」


「・・・・・・??」


突然そんな事を言われ、驚きも何も表れる事はなかった。颯は頭がおかしくなったのか、テンパっているのか、そう考えた。
だが綾巴の考えとは異なり、颯の目はいつになく真剣な目付きだった。

「どうしてそんな事言うの・・・」


「パパはな、ここ数週間で変な男達に追われて大変なんだ。なんでこうなったのか淳に聞いたら・・・パパの結婚相手が関係してたんだ」


「結婚??待って、パパの相手は・・・」


「玲奈は確かに綾巴のママだ。俺はパパだ。だけど、結婚したことはない。パパは元々、結婚しようって誓った人がいたんだ」


「え、ど、どう、して・・・」


「別に玲奈は嫌いじゃない。で、その結婚相手がどう関係してるかっていうとな。変な男達に借金の肩に捕まっちゃってるんだ。俺はその人を助けたい」


「・・・・・・助けたらどうするの」


「結婚する。だけどそのために、この家を置いて出ていっちゃうかもしれない」



「出ていくの・・・」


綾巴は少しぐずつきだした。話の内容は正直、どうでもいい。綾巴にとって大事なのはパパ。そのパパがいなくなると考えるだけで、綾巴は泣いてしまいそうになっていた。



「なんで、そんな事言うの・・・っ・・・」


「・・・辛いのはわかってる。だけど、結婚は譲れないんだ」


「違う、結婚なんかどうでもいいの・・・なんで、パパがいなくなる必要があるのかって、そっちが気になるの・・・」


「・・・・・・」


「パパは何もわかってない・・・なんで、なんでいなくなるなんて言うの、ひぅぅ・・・・・・へぇん、ぇん・・・」



胸板に顔を埋めて大泣きする綾巴を抱き締めると、頭を撫でた。決まったわけじゃない、と言っても、更に泣かれるだろう。
綾巴にとっては、その可能性があるだけで悲しいのだから。この話を綾巴にするまで、何度も自身と葛藤したのに、いざ話すと心が痛い。
綾巴はなんであっても泣いたはず。
娘を泣かせるなんて、父親として失格だ。
颯は綾巴を抱き締めたまま、ベッドに横になった。



「パパ・・・いなくならないよね」



「わかった、必ず帰る。その時は家族が一人増えているだろうから、お祝いしないと」



「いなくならないんだったら、結婚でも何でもしていいよ。約束してね?」


「ああ、約束する」











一方、遥香はこの数週間、姿をくらませてまりやの過去を調べていた。
達哉がバックについた事もあり、膨大な情報量が遥香の手に集まった。そこから点と点をつなぎ合わせ、現在へとつなげる。
なぜ、まりやは小室の奴隷になっていたのか。
遥香はようやく、確実性の高い答えを導きだした。


颯とまりやが付き合い、婚約を決めてから半年以内に、颯はまりやの父親に挨拶に行った。
元々、まりやは幼い頃に母親が離婚した事で別れており、家庭に知り合いを連れてくる事はなかった。初めての客が結婚相手だったのだ。
父親も快く了承していたという。だがそれからすぐ、父親は肺がんになってしまい、それと同時期に、経営していた会社が多額の借金を抱えて倒産してしまった。
病に伏した父を看病するため、まりやは実家に戻って以来、颯とは会っていない。
颯とまりやの関係についてはここまでだ。次に小室との関係について、遥香はこう仮説した。

借金地獄の渦中にある父親の元に、一本の電話が舞い込んできた。それは小室からの電話で、それから悪夢がやってくるまで時間はかからなかった。
数日後にやってきた小室組は、病気の父親を気遣い、借金を返す見積りを立ててくれるというのだが、それが地獄に仏とはならなかった。
それから数日後、まりやは紙くずになった父の会社の資料を整理していたのだが、その中にあった不審なものを見つけた。その中身は、小室の会社との融資に関する資料である。まりやは何かが引っ掛かり、資料を隅から隅まで調べ直した。その結果、まりやは知るべきではない事実を知ってしまった。
小室組の一人が、父の会社の社員として、裏で手を引いていたのである。その目的は、会社の莫大な資金である。父の会社は中小企業ながら信用度の高い技術職の運営をしていた。
大手企業からの依頼もあったりと、運営するにあたって問題などなかった。
小室組は資金を“違和感無く”手に入れるために様々な会社へ組員を送り込み、狙いをしぼると徹底した工作を仕掛けて会社を潰し、自分達は無関係になるようにして逃げる。
まりやの父が病気になった事も並行し、小室は仕掛けてきたようだ。
そして最後に、返せるわけもない額をどうにかしたいのであればと、小室は脅した。
それが、まりやを売れ、という取引だ。
父がそれを了承する事は万一にもなかったが、小室は非道な男。次の日の夜、まりやの父を死亡事故に見せかけて殺害したという情報まできている。
それが真実か否かは確かではないが、それによってまりやは小室の監禁奴隷として日の光の当たらない世界に堕ちてしまった。


「でも小室の目的は・・・まりやぎを手放すわけないし・・・・・・奴隷として放置はしておかないだろうし・・・小室の事だから、叩かれても埃が出ないやり口を望むはず」


最終的に何をするのか、まりやはどうするのだろうか。遥香はこれを淳に話すため、鴻上一家の元へ向かった。

■筆者メッセージ
というわけで、あいつには・・・の続きです。
謎のエラーで編集が出来なくて、続きをこの作品で書きます。
読みにくいでしょうが、ご理解頂けましたら幸いです。
壮流 ( 2016/09/18(日) 19:11 )