第1章 〜無線LANと始業式〜
第3話
やっとのことで理央は自分のパソコンを手に入れ、ゲームを開始することができた。まさか夏休みがアルバイト漬けで終わるとは、入学した時には想像すらしていなかったことである。



「お、これだ」

友梨奈が参加しているネットゲームは、名前を「勇魔戦争オンライン」という。教室で喋っている友人たちの話を総合すると、まだリリースされてから日が浅く、参加者も他と比べると少ない。もっとも理央は「他」を知らないので参加者の数には興味がない。

 オーソドックスな感じのファンタジーな世界の中で、勇者軍と魔王軍が戦争をしている。プレイヤーはゲーム開始時にどちらの軍に所属するか選び、モンスターを倒してレベルを上げ、同じ軍の仲間と共に敵の領地に攻めていく。このゲームは、プレイヤーどうしの戦いを醍醐味としているのだ。

 理央は迷わず勇者軍を選択。何故なら友梨奈が勇者軍だからだ。仲良くなるためにやるのだから、敵側に回ってしまったら意味がない。キャラクターの名前は「リオ」。

本当なら好きな名前を考えるところだが、実名を使うのには理由がある。友梨奈との交流を目当てに始めた男子が多いせいで、友梨奈が使っているキャラクターの周りには同じ学校の生徒があふれかえっている。実際の知り合いが集まっているのだ。そこで生まれたのが、「本人を特定できる名前を使うこと」という暗黙のルールだ。ゲームの中で誰が誰のなのかわかっている状態だと、抜け駆け、裏切りといったような悪事ができなくなる。そんなことをした次の日には、学校での制裁が待っている。そして何より友梨奈に嫌われてしまう。そうやってお互いをけん制するためのルールだった。そのルールを友梨奈が受け入れたので、男子たちは律儀に守って本名を使っている。

 性別を決めて、次は職業である。理央はすでに剣士にしようと決めている。冒険をするならやっぱり件で戦いたい。そういえば、友梨奈の職業は何なのだろう。まあ、明日から学校が始まるから、そこで訊けばいいや。



 と、職業を選ぶ画面に移ったところで、理央は不思議なことに気づく。どうにもわけが分からないので、勇魔戦争オンラインの先輩であるクラスメイトの堀田夏樹に電話することにした。

「夏樹、ちょっといいか?俺さ、勇魔戦争オンラインを始めたんだけどさ」

『マジで?やっとパソコン買えたか。もち勇者軍だよな」

 夏樹は入学してから最初に仲良くなった友人で、サッカー部に所属している。友梨奈にお近づきになるためにすぐにゲームを始めたが、運動部の宿命として、頻繁にログインできないことを嘆いていた。

「ああ、勇者軍を選んだんだけどさ、職業ってこれ自由じゃねえの?なんか質問攻めにされてるんだけど」

 職業選択画面には生年月日や趣味を入力するところがあって、素直に入力したら今度は四択の質問が始まったのだ。

『そうなんだよ。質問の答え次第で勝手に職業が決められんの。何気に斬新じゃね?』

 夏樹が言うには、後から転職もできるが、納得がいくまでキャラクターを新規作成する人もいるらしい。しかしそれだとこのシステムの意味がないので、理央はどんな職業になってもやり直さないと心に決め、質問に挑んだ。





■筆者メッセージ
よろしくお願いします。
ふぁりあ ( 2017/02/04(土) 20:54 )