第2話
友人が一緒というのは心強く、理央が働いていることを知った別の友人がからかいに来たりと、それなりに楽しく働くことができた。しかし、すでにパソコンを持っている妹によれば、ネットゲームをやろうと思ったら性能のいいパソコンを買ったほうがいいらしい。もちろん性能に比例して値段は高くなり、今のままでは足りないと思った理央は、コンビニのシフトが入っていない時間に映画館でのアルバイトを入れた。
こうして夏休みにコンビニでレジを打ち続け、映画館でチケットをもぎり続けた結果、理央はまとまった金を手に入れた。給料日は先になるので、正確には給料としてもらえる分のお金を母から借りたのだが。
父に車を出してもらい、労働で得た現金を握り締め、家電量販店で店員に訊いてゲームに適しているパソコンを買ったのが八月三十一日のことだった。かわいい女子と仲良くなりたいという理由だけで、男はここまで頑張れるのである。
クラスメイトたちからは三か月ほど遅れてのネットゲーム参入となったが、まあ仕方ない。
ほとんど遊ばずにアルバイトに明け暮れた自分を褒めてやりたい。
パソコン関係に疎い理央は設置に苦労したが、なんとか新品のパソコンを起動した。
「おぉ、ついたついた」
電源が入っただけで思わず独り言が出てしまった。
理央が買ったデスクトップパソコンは、本体とディスプレイが黒いデザインだ。理央は想像する。このパソコンを人間に例えるなら、黒い髪が美しい、年上の女性に違いない。八月に自分のもとへやって来たから、「葉月さん」と名づけよう。
現在夜の八時、まだ時間はある。よし早速始めよう。すでに始めているクラスメイトによれば、店でソフトを買わなくても、インターネット上で登録して、ダウンロードとかいうやつをすればいいらしい。利用料として毎月1500円かかるというので、言われるがままにプリペイド式の電子マネーを買ってある。
「・・・あれ?」
始められない。というより、インターネットに接続できない。ネットゲームなんだから、インターネットができなければ話にならない。
ここは詳しい妹に訊くしかあるまい。もはや自分の手には負えない。
「ゆりあー、入るぞ」
隣の部屋で妹のゆりあはパソコンに向かっていた。
「どしたの?」
パジャマ姿のゆりあはくるりと椅子を回した。いつもはツインテールにしている髪も、風呂あがりなので下している。
「インターネットができない。どうすりゃいいんだ?」
「そりゃ設定しないとできないっしょ。ちゃんとした?」
「設定って、今のパソコンはインターネットもついてくるんだろ?」
「え、何その残念な発言・・・。兄ちゃん、ホントそっちの知識ないんだね。無線LANって聞いたことある?」
ゆりあは引いているようだった。
「ムセン・ラン?あの台湾の歌手の?歌も上手いけどダンスもなかなかいいよな。グループ抜けてソロになるって聞いたときは驚いたけどよ・・・」
「いいよ無理に知ったかぶらなくて」
「くっ・・・」
ゆりあはパソコンの横に置いてある、白くてよく分からない物と、くろくてよくわからない物を指した。
「これがモデムで、こっちがルーター。うーん、なんて言ったらいいかな。モデムでネットをできるようにして、それからルーターで複数のパソコンでネットができるように広げてるって感じかな」
「モデムがコンセントで、ルーターってのがタコ足配線みたいなもんか」
「兄ちゃんって、理解は無駄に早いよね。で、兄ちゃんが持っているトンカチは何に使うのかな?」
念のために持ってきていたが、どうやら活躍しそうである。
「ルーターを俺のと繋がないといけないだろ?壁に穴あけねえと」
「・・・兄ちゃんさ、物心ついた時から面白くなかったことないよね」
「そりゃどうも。んじゃ、穴開けるからベッドどかすぞ」
「無線だってば!ルーターから、えっと・・・『ネットできる電波』が出てて、それをパソコンで受信できるようにすればいいの!」
「そんなことできんのか?すげえな葉月さん」
「急に誰!?」
パソコンに名前をつけたと言ったらゆりあは引くよりも呆れたようだったが、ともかくゆりあから設定に使うCDを借り、葉月さんは無事にインターネットを習得した。