第5話
麻「裕太くん、おはよう!」
麻衣が満面の笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。
うん、今日も可愛い。最高に可愛い。
俺の彼女が。
裕「おはよう。麻衣」
昨日の今日で、なんとなく恥ずかしさもあったが、なんとか冷静に言えた。
麻「今日は珍しく早いんだね。あ、木村くんもおはよう!」
隼「あ…お、お、おはよう、白石さん」
隼也の声が震えている。
わかる。わかるよ隼也。普通の挨拶なのに麻衣相手だと緊張する気持ち。すっごくわかる。
隼「おい、ちょっと裕太」
隼也が俺の手を引っ張って少し移動する。
隼「お前、白石さんのこと、さりげなく麻衣って言っただろ。いつからそんな呼び方するようになったんだよ。いいか裕太?お前はたまたま衛藤さんのおかげで仲良くなれただけで、本来お前ごときが話せる相手じゃないんだ。気安く麻衣とか呼ぶな!」
隼也が小声だが熱のこもった声で言う。
そんなこと、俺だってわかってるよ隼也。
でもさ
裕「付き合ってるから俺、麻衣と。昨日から。彼女が出来たっていうのは麻衣のこと。で、向こうが麻衣って呼んで欲しいって」
俺は真剣な顔で隼也に伝える。
隼「…お前それマジ?」
隼也が呆気にとられた表情をして言う。
裕「マジ」
しばらく沈黙が続く。
隼「…なんか、一気にお前が遠くに行った気がするよ。そっか、お前でも白石さんと付き合えるのか…。夢があるなぁ…。俺、今まで目標とする人はイチローって言ってきたけど、今度から西川裕太にするわ」
裕「なんだよそれ(笑 そもそもなんで今までイチローだったんだよ?お前小中サッカーで高校バドじゃん。野球要素ゼロじゃね?」
隼「…もういい。お前は白石さんとイチャイチャしてろよ。俺、ちょっと落ち込んで来るわ」
俺の質問を無視してそう言うと、隼也は自分の席へと行ってしまった。
俺も麻衣の元へ戻る。
麻「何話してたの?」
麻衣が軽く首を傾げながら聞いてくる。
この仕草すらも美しくてドキッとする。
裕「あ、いや、今日の部活の話。バドミントンの」
適当に誤魔化す。
麻「そっか、木村くんもバドミントン部だっけ?」
裕「そうそう。あいつもバドだから」
麻「ふーん。ねぇ、今日さ、お弁当一緒に食べない?2人で…(照」
麻衣が僅かに頬を赤らめながら言う。
裕「俺もそう思ってた。麻衣が良ければ…」
ドキドキが止まらない。彼女と2人でお弁当。学生なら誰もが一度は経験したいシチュエーションだ。
麻「よかった!実は今日ね、裕太くんの分も作ってきたの。でも考えたら、裕太くんもお弁当持ってきてるよなーと思って…どうしよう。昨日連絡しとけば良かったんだけど」
麻衣が困り顔で言う。
麻衣の手作りだと?さっき妄想していた事がまさに現実に…。
裕「大丈夫!食べる食べる!なんなら、家から持ってきたやつは部活の後でも食えるし。それより、麻衣が作ってくれたの食べたい」
麻衣の手作りなんて、母さんの作った弁当無視してでも食べたいに決まってるじゃん。母さん、ごめん。
麻衣がパッと笑顔になる。
麻「ほんと?良かったぁ…。じゃあ、決まりね。せっかくだし、中庭で食べよっか」
カップルで弁当といえば屋上。
だが残念ながら、うちの高校では生徒は屋上を使えない。5年ほど前は使えたらしいが、休み時間にキャッチボールやサッカーで遊んで、誤ってボールを落とすバカが多かった事もあってダメになったらしい。
それで、カップルでも教室や食堂がメイン、一部の熱々カップルが中庭で食べるという流れが出来上がったと前にバドミントン部の先輩に聞いた。
裕「オッケー、じゃあそうしよう。麻衣の手料理かぁ…楽しみ(笑」
麻「そんなに期待しないでね?全然大したもの入ってないから…。でも、」
麻衣の顔がまた赤くなる。
そして続けて言う。
「愛情はいっぱい入ってるけどね(照」
その一言で、俺も一気に恥ずかしくなる。
漫画やドラマのセリフでしか聞けない、俺には縁のない言葉だと思ってた。
まさか本当に言われる日が来るとは。
しかも、こんな可愛い彼女に。
白石麻衣に。
俺が。
裕「あ、ありがとう…。すごい嬉しいし、なんかすごい恥ずかしい(笑」
麻「私も自分で言っといて恥ずかしい(照 でも、裕太くんのこと大好きだから」
じっと俺の目を見つめて言う彼女。
あ、そういえば俺、「好き」って麻衣に言ったっけ?昨日…。
裕「ちゃんと言ってなかったかも。何やってんだろ俺…」
ボソボソと言うと、麻衣は???といった感じでこちらを見ている。
俺はふぅっと息を吐く。
裕「麻衣の事が大好きです。俺も」