第2話
裕「すごい急な話なんだけどさ。俺、白石さん…麻衣と、付き合う事になった」
美彩へ報告するだけなのに、麻衣と手を繋いだときくらい緊張して少し声が上ずる。
美「…知ってるよ」
裕「えっ?なんで?」
美「麻衣やんからさっき連絡あった。正直、今日2人で帰るみたいな話になった時点で、もしかしたらとは思ったけどね」
なるほど、麻衣が先に連絡してたか…。
裕「もしかしたらって、どういうこと?」
美「はぁ…。裕太は鈍感過ぎ。普通なんとなく気づくでしょ。麻衣やんが裕太に気があること」
裕「告白されるまで全然気づかなかったんだけど」
麻衣がそんな素振り俺に見せたことあったっけ…。
美「だから鈍感なのよ…」
「私の気持ちにも、ね…」
裕太「ん?なんか言った?」
美「ううん。とにかく良かったじゃん、彼女が出来て。しかも学年1の美人。正直どう考えても裕太には釣り合ってないし、明日からクラスの男子から無視されたりするかもしれないけどね笑」
裕「嫌なこと言うなよ…。でも、無くはないよなそれ。 3年の先輩とかに見られたら絶対ヤバイよなー汗」
美「麻衣やんを一生守る前に自分の身を守らないといけないね?笑」
美彩にいじわるっぽく言われて思い出す。
裕「あ、それは…汗 それも聞いたの?」
美「聞いたよぉー。『なんかプロポーズみたいなことされちゃった照』って笑 ま、告白なんて初経験だろうから仕方ないか」
言われて恥ずかしくなる。
裕「うるさい。美彩だって告白されたらパニクると思うぞ多分」
美「は?私はもう何回も経験してますから。3年の高橋先輩にも告られたし」
裕「えっ?そうだったのか…」
考えてみれば美彩のルックスで告白された経験がないなんてありえない。
でも、今までそんな話俺にした事は1度も無かったし、彼氏がいた事もなかったはずだ。
裕「てか高橋先輩って、サッカー部のあの高橋先輩?なんで断ったんだよ」
高橋先輩は、うちの高校ではちょっとした有名人だ。サッカー部キャプテンの3年生で背も180近くあって、ルックスも爽やかイケメン。父親が大学病院の上層部らしく、お金持ちで勉強も学年上位。まさに、美彩の理想のタイプ。
そんな先輩から美彩が告白されてたなんて知らなかった。
しかも断ってるって…もったいない。
美「それは………」
美彩の声は小さく、なにか躊躇いを感じる。
裕「どした?」
美「それは…。普段あんたみたいな平凡な男とずっと一緒に居るのに、急に高橋先輩みたいな完璧な人と一緒に居る事になったら、どうして良いかわかんないでしょ?だから、裕太のせいだよ!」
一気に早口で捲し立ててくる美彩。
裕「なんだよそれ…。俺のせいかよっ!」
美「そうよっ。あんたがもうちょっとイケメンで勉強も運動も出来るやつだったら、私も耐性がついてて即OKできたのに!」
また早口でさり気なくディスられる。
裕「…なんかごめん」
美「…こっちこそごめん。別にこういうことを言うつもりじゃなかったの…。そうだ裕太、今日はほんとにありがとう」
今度は急に落ち着いた様子で美彩が言う。
裕「もういいから、その事は気にすんな」
美「次からもし忘れても裕太に頼めなくなっちゃうね」
裕「どうして?」
美「他人の彼氏を身代わりには出来ないでしょ笑」
裕「別にそんなことないだろ。もし忘れたらまた言えよ。いくらでも身代わりになるから」
美「……優しいね、裕太は。本当に昔から変わらないよね、そこだけはさ」
美彩が優しい、噛み締めるような声で言う。
裕「それしか良いところないんだろ?俺は笑 朝言ってたじゃん。… でも、それ聞いて、そこだけは絶対変わらないようにしようって思った」
美「…それで宜しい。可愛い彼女出来たから調子乗ってるかと思ってた笑」
少し間を空けて美彩は続ける。
美「…んじゃ、明日からは別々に学校に行こっか。彼女居る人と今まで通り2人で学校に行くのは良くないでしょう?」
美彩に言われてハッとする。
たしかに、明日からどうするのが良いんだろうか。
裕「でも、麻衣は俺と美彩の関係知ってるし別に」美「ダメ‼」
大丈夫じゃない?と言おうとしたところで美彩から遮られる。
美「バッカじゃないの?女の子の気持ちわかんない?彼氏が、他の女の人と2人で登校とかあり得ないから。それがたとえ私でも、ね。…だから、明日からは別々。わかった?じゃあね」
そう言うと電話はすぐに切れた。
俺はスマホを閉じる。
裕「明日から1人、か…」