第1話
裕「麻衣。か…照 」
俺は今、ベッドの上に寝転んで、にやけて歪む口に手を当てて天井を見上げている。
あの後、白石さ…じゃなくて、麻衣を見送ろうと、自分が乗るバス停とは反対のバス停に手を繋いだまま2人で行った。
俺はというと、緊張し過ぎてまず麻衣の顔が見れない。そのうえ、何か話をしようにも、会話のネタが何一つ浮かばないという見事なダメ男っぷりを発揮していた。
結局、麻衣の方からフってくれた話に「うん」とか、「そうなんだ」とか相槌を打つので精一杯だった。
それでも、最後に麻衣がバスを乗るので、なんとか頑張って自分の顔を麻衣の方に向けて目を合わせた時だった。
麻衣が、とびっきりの笑顔で
「今日は幸せ。…裕太くん、好きだよ!照」
そう言って俺に…。
チュッ!…
裕「あーダメだダメだ。思い出しただけでやべぇ!あーあーあーあーあー」
気持ちを落ち着かせる為に、謎の発声練習を始める俺。
昨日まで、いや今日の放課後まで友達だった、というか仲良くしてくれてる憧れの的だった人が彼女になったんだ。気持ちの整理なんてつくはずがない。
でも。。。
でもなんか…。
なんかこう…どこか胸に引っかかる気がするのはなんでだ?
こんなに幸せなはずなのに。。。
ベットから起き上がって目の前の机をぼーっと眺めていると、俺の頭にふと美彩が浮かぶ。
裕「美彩…。そういえば、麻衣に抱きつかれたのって美彩の話してた時だっけ…」
確かそうだった。今日の教科書を貸した事について話していて、俺が美彩はやっぱり特別な存在だと言おうとした時に…。
裕「美彩にはちゃんと言わないとな…この事」
俺はスマホを手に取り、ラインを開く。
裕【俺さ、白石さん…麻衣と付き合うことになった。いきなりすぎて、ビックリすると思うけど。美彩には1番に伝えとこうと思って】
打ち終えた文章を読み直す。
裕「やっぱり、電話の方が良いかな…」
俺は打っていた文章を消して美彩に電話をかける。
美「はいもしもし。どうしたの?」
美彩が電話に出た。
いつもと変わらない美彩の声。
今日も普通に何度も聞いた声。
これからもいつでも聞ける声。
それなのに何故か、懐かしさと、寂しさと、心地よさを感じる。
裕「あ、美彩?急にごめん。俺さ…」