坂道妄想記 - 中編 -佐藤さんに恋をした-
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01 佐藤さん
『話したいことがあるので、今日部活終わったら北公園に来てください。』
スマホの画面に映る文字を何度も見返しては胸を躍らせる。同じクラスの佐藤さんからのメッセージ。文章を覚えてしまうくらいに何度も何度も見ながら喜びを噛み締める。


佐藤さんとの出会いは高校入学の時だった。たまたま同じクラスになり最初の席が隣だっただけ。僕たちの関係はそこから始まった。
佐藤さんはすごく可愛い子で、その上明るくて社交的だ。クラス一はもちろん、学校一のマドンナとの呼び声も高い。佐藤さんが笑えばクラスの男子は皆イチコロだった。
入学してすぐのとある授業中、数学の問題を佐藤さんに教えてあげた日から僕たちはよく話すようになった。勉強を教えてあげるだけでなく、互いの好きなこと、日々の他愛もない話で盛り上がった。あまり人と話すのが得意でなかった僕でも佐藤さんと話せば不思議とたくさん話してしまう。僕の話を聞きながら笑ってくれる佐藤さんの笑顔が大好きだった。しばらくすると、僕たちは周りからチヤホヤされるくらいに仲が良くなった。
やがて1学期が終わり、夏休みが来た。部活で充実した夏休みは送っていたけど、佐藤さんと会えない日々は寂しかった。


夏休みも終盤にさしかかる頃、佐藤さんから突然誘いが来た。
『夏休みの宿題がヤバいから教えてほしいな🙏私の家に来て勉強会とかどうかな…?😳』
僕は二つ返事でOKした。

初めてあがった女の子の部屋はすごくいい匂いがした。そして久々に会った佐藤さんはやっぱり可愛かった。ドキドキしながら2人で夏休みの宿題を解いた。時間があっという間だった。あの日で佐藤さんとの距離がグッと縮まった気がした。
そして、夏休みの最終日、佐藤さんからあのメッセージが届いたのだった。


公園に着いた僕は、佐藤さんを待ちながら、勉強会の日のことを思い出す。
(あの日の佐藤さんは特に可愛かったなあ。女の子って家ではあんな格好なんだ…)
その日の佐藤さんは薄いノースリーブのTシャツにゆるいショートパンツだった。弾力のありそうな真っ白な二の腕と太ももが忘れられなかった。学校ではスカートの丈も膝下くらいですごく清楚な印象があっただけにギャップがすごく新鮮で、より女の子っぽく見えた。そして、そんな姿を僕に見せてくれたことがすごく嬉しくもあった。
(でもあれはさすがにゆるゆるすぎたよな。もしちょっと机の下を覗いてたらパンt… いっ、いや、だめだめ、佐藤さんはこんな破廉恥なことを考える男は嫌いなはずだ。)
邪な方へと進んでいく思考を頭から振り払う。好きな子でなんてこと考えてるんだ、僕は。こんなことを考えているようでは佐藤さんに釣り合う男にはなれない。僕は僕自身を戒めた。


公園の時計が19時を告げる。ここへ来てもうすぐ20分が経ち、辺りもすっかり暗くなってきていた。佐藤さんはまだ来ない。
辺りには酒の缶やタバコの吸い殻が散乱している。北公園はあまり治安のいい公園ではなかった。カップルが野外で"そういうこと"をする時によく使われるという噂まであった。
(公園でそんなことする人間なんてロクなやつじゃないだろうな… そういうことは人目につかないきちんとした場所で2人きりでするものだよな)
チャラチャラしたヤンキー男と厚い化粧のけばけばした金髪女を勝手に思い浮かべながら軽蔑の気持ちを抱く。僕も佐藤さんもそんなのには無縁の人間だ。


その時だった。背後の草木のざわめきの中から人の声が聞こえてくる。
「声我慢できなっ…💞おお゛イグッ💞💞」
(嘘だろ、これってまさか… ど、どうしよう)
噂は本当だったらしい。パニックになって身体が固まる。どうしたらいいのだろう。しばらく呆然としていたが気を取り直す。とりあえず、佐藤さんをこんな所に来させるわけにはいかない。そう思い、スマホを開けたちょうどその時、佐藤さんからメッセージが入った。

『ごめんね、今日ちょっと体調悪くて。また今度にしよう』

落胆と安堵の気持ちが入り混じる。いつ茂みの中から"野蛮なカップル"が出てくるかも分からない。僕は足早に公園を出ながら佐藤さんに返事を送った。

『そうなんだ、お大事に。いつでも大丈夫だよ!』
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■筆者メッセージ
大変ご無沙汰しております、ベルフェゴールでございます。
久々に1話更新いたしました。誕生日記念です。近々続き(?)も更新させていただきます。ぜひ楽しみにお待ちください。
ベルフェゴール ( 2022/08/09(火) 07:47 )