02 持余し(女子side)
大学に入っての夏休みは何もかもが暇で仕方がない。そんな暇な日を作らないように努力するも現実は残酷であり毎日のようにバイトが入る日々。今日もカウンターでは椅子に座り地面に届きもしない足をぶらぶらとバタつかせていた。
「恋する乙女はさっさと仕事をしなさい。」
売り物である雑誌を頭にべしりと勢いよくたたきつけられる。奈々未さんの後姿を見ながら彼女のように強くなれたらと思うことは何回もあった。
今頃、生田先輩は何をしているのだろう。あの時、私は寝ていなければどんな展開が待っていたのか今でもふと思う事があった。そんな気持ちを振り払おうとしていざ忙しくしようとしてもできないのがこの世界での残酷さなのかと思いながらカウンターから見える本棚をただ茫然と見ることしかできなかった。
「今度は思いを伝えられなくて悩んでるのかしらね。」
的を得ているせいで答える気にもなれなかった。彼女は呆れたように私を見つめて、ただ頬をつんつんと突くだけだった。あまりにもずっと続くものだから抵抗の眼差しを奈々未さんに向ける。
「ほらほらそんな強気なことはできるのにいざ告白しようとすると恐れるのね。」
「責めないでくださいよ。こっちだって何度しようとしたのやら。」
チャンスはいくらでもあった。そのチャンスから目を背けて逃げてきたのは私だ。考えれば考えるほどにどんどんと沼にはまっていく。
「はいはい。落ち込むくらいなら少しは対策でも練ったらどうなの。」
泥沼にずぶずぶと入り込んでいる私の腕を無理くりつかみ引っ張り出す。カウンターに置かれた複数冊の本には数々の地名が書かれていた。どの雑誌にも夏休み満喫と堂々と文字が大きく書かれており、どの出版社も考えることは一緒なのだと思ってしまう。
「これが何ですか。」
「二人でどこか出かけてきたらいいじゃない。」
さらっと彼女から出てくる言葉はガラスの破片のように一々突き刺さってくる。そんなことをいったところで私がすぐさま行動ができるわけではない。現にこうやって彼のことを考える事を忘れるためにここまで来てしまっているわけであって暇をつぶしに来ているわけではないのだ。
「いけないですよ。そう簡単に誘えるわけじゃないですし。」
「別に二人で泊まりに行きなさいと言ってるわけじゃわよ。いけないならそれなりの人数を連れて行けばいいじゃない。あっ、何かお探しでしょうかー。」
呼び掛けてるお客に気付きそそくさと商品棚へと駆けていく姿を見送る。その間に旅行雑誌のページをパラパラと捲っていくとどの雑誌も最初の見出しに夏デート必見と文字が目に入る。どのカップルも幸せそうな笑顔であり本当に楽しんでいるのかと疑問に思ってしまう。
一つのページが目に入る。そして、ある一つの疑問が浮かんだ。
「どうしたの。そんな難しい顔なんかしちゃって。」
「奈々未さん。一つ彼について聞いてもいいですか。」
私から質問したことに驚いていたのか目を少し見開いていた。やがていいわよと一言返事をして旅行雑誌一冊そっと手に取った。