20 暗中(女子side)
薄暗闇の中で彼がいる部屋へと足音を立てぬようにそろりそろりと足を運ぶ。大学生にもなってなんて滑稽な真似をしているのだろうと自分を貶していくが、彼がいつここにやってくるのか分からないのだ。
一歩ずつ歩みを進めながら四月の時から今までのことを振り返る。思い起こせば全てみなみに先を越されてしまった。もしかしたらこのまま上手くいってしまったのでは。
そんな不安に駆られてしまってか飛鳥の足がピタリと廊下に張り付いてしまう。自分の意志で動かそうとしても動かせない。小刻みに指が震えているのが分かる。
「早く行きたいのに。」
今にも心臓が破裂しそうにもなるし呼吸も乱れてきて意識がもうろうとしてくる。後悔ばかりの私の恋はいつ終わるのだろう。日々積み重なっていく想いはもうすぐ限界を迎えそうだった。私自身の臆病さに勝てなかった。
ペタリと廊下に座り込んでしまう。悔しくて涙も出てこない。暗闇の中で私だけが取り残されていき、勝手な想像が私の中でぐしゃぐしゃとかき乱していく。
「お願いだから、これ以上やめて。」
そう呟き涙が頬をつたわった時向こう側からすすり泣くみなみの声が微かに聞こえてきた。
目をそっと瞑り耳を澄ませる。一瞬の沈黙と会話の声が聞こえてくる。
「それってどういうこと。」
「生田先輩の事が好きなんです。」
一瞬で胸が張り裂けそうになった。とうとう言ってしまったのか、高鳴っていた心臓の音が段々と弾ける音が弱まっていく。クリアになってきた頭の中でただ本能的に進めという命令だけが響いてきた。
「だけど生田先輩は別の人を見てますよね。」
みなみの後付けの言葉がぐさりと突き刺さる。別の人物とは、みなみでもないってことは蘭世?それとも未央奈?将又、あの二人なのか。這いつくばいながらドアの前へとやってくる。扉が微かに開いておりそっと覗くが暗くて何も見えないましてや今の気持ちが不安定な私にとって涙が光を遮断しているせいか二人の影さえも消していた。
「ありがとう、みなみさん。そして…。」
続きを聞こうとしたが彼が口ごもっていたせいかか何も聞こえない。もう一度聞きなおしたい、そんな気持ちもある中で臆病な私はただその場に蹲って彼を待つことしかできなかった。
「おやすみなさい。みなみさん。」
やがて聞こえてくる彼の足音に私は安堵したのか肩の力がスッと引いていき薄暗闇の中にいる私はさらに真っ暗な闇の中へと落ちていくのだった。
少し時間が経ったのか体の感覚に違和感を持つ。その感覚はなんだか宙にふわふわと浮いているみたいで、地面に足をつけているような感覚ではない。少しして背中に柔らかい感覚が訪れた。そうか、私はあの場所でそのまま寝てしまったのか。もうろうとする意識の中で彼の声が途切れ途切れ聞こえてくる。
「…ですよ。飛鳥さん。」
そう呟きながら私の頭をそっと撫でている彼がぼやけて視界に入ってくる。けれども私は瞳を開けようとはせずにそっと彼の独り言に耳を傾けていた。