17 姫様(男子side)
顔を真っ赤にした蘭世を横に僕は堀さんとみなみさんの問題を一緒になって解いていた。
蘭世なんかはもうお嫁にいけないなどぶつぶつと言っては深川さんに慰めてもらっていた。
「堀さん。この問題解ける?」
「生田先輩これ知らないんですか!?」
意外だったのか、もともと大きな瞳がさらに大きく開かれる。僕も完璧人間ではないんだから。むしろ完璧人間というと…。
「そうそう。だからこの式はこうなる訳。」
橋本に関しては全てにおいての成績がトップクラスまさに絵にかいたような主人公みたいな存在。いつも小学生の頃からずっと橋本の背中を追っていた。みんなのあこがれの的が何故僕になんてと疑問に思うこともあった。一番驚いたのは僕と進学先を同じにするといった時のこと。彼の実力ならばもっと上の大学を選べたはずなのに。
「生田先輩。ここ教えてください。」
服の裾をぐいぐいと引っ張られて振り向くと困り顔をしたみなみさんが待っていた。見てみると少し複雑そうな式で西野教授らしい問題だった。
「一緒にといた方がいい?」
コクリと一つ無言で頷くみなみさんを見て僕は自分の課題をいったん止めて少し間を詰める。
「微分積分はできるかな。」
「できないです。」
申し訳なさそうに答える彼女に僕も覚悟を決めて少しずつではあったが基礎の基礎から教えていった。かつてのバスでの飛鳥さんとの光景が鮮明に記憶から広がってくる。だけどなぜ飛鳥さんの顔が浮かぶんだ。
橋本に言われたことが頭の中でグルグルと駆け巡っては心臓にどっしりと落ちてきて
「だからねここがって、みなみさん?」
いつの間にか説明をしているうちに彼女は頭を上下に規則正しく揺れている。終いには横に揺れ始めやがて僕の肩へともたれかかってきた。本気で寝ているせいか体の重みが肩に伝わってくる。
「あらら何?雅君やるー。」
目の前で勉強を進めながら一部始終を見ていた白石さんがからかってくる。そんなからかいの声にみんなの視線が一気に集まる。それでも寝息をたててはスヤスヤと眠るみなみさん。恥ずかしさで今からでもすぐに気絶かなんかでもいいからみなみさんのように意識がどこかへ飛んでいってほしいと思った。
「白石さんあんまりからかわないでください。」
「そんな大きい声あげちゃうと起きちゃうわよー。」
からかい続ける白石さんにため息しか出てこない。どうしてこんなにも西野教授に然り年上の人たちに弱いのだろう。
「からかうのは終わりにしてとりあえず布団まで連れていってあげたら?」
「分かりました。みなみさん、みなみさん。」
むくりと起き上がるが目がほぼつむっている状態で寝ている状態に近い、そんな彼女の手を引きゆっくりと首の前までもってきて抱きかかえる。
「おー生田がお姫様抱っこか。」
感心の声をもらす橋本を尻目に僕は落とさないように慎重に運んでいく。姉にもよくやっていて慣れてはいたがみなみさんの身体は肉付きがいいのか姉よりも少し持つのに苦戦した。やがて寝室に着くと両親の懐かしい匂いが鼻につく。しばらく開けてしまった部屋は前まではがらんとしていたのに今となっては窮屈に感じる。
「よいしょっと。」
体に衝撃を与えないようにゆっくりと彼女を下ろしていく。下ろしたと同時に彼女からくぐもったうめき声が耳にかかる。暗闇のせいか少しドキドキとしてしまって、それを振り払おうとしてすぐにみんなのもとへと戻ろうとした。すると、急にグイッと腕が引っ張られて暗い天井を仰ぐ。一瞬、雅晴の中で何が起きたのが分からなかったがすぐにその正体が分かった。